次の日の朝も、工藤は女子とつるんでいた。集まるのが好きじゃないと言っていたが、意外と普通に過ごせるんじゃないか。俺なしで学校楽しそうじゃん。
 だけど、俺が工藤に嫌われない自信があったのは確かだ。予想通り昼休みに、俺のところへ財布を持って誘いに来た。

「明日ね、その合コン? に行くんだ」
「うん」

 屋上へつながる階段で、メロンパンを頬張る。工藤はワッフルみたいなのを買ったようだ。少し気恥ずかしそうにもぞもぞと食べていた。
 話してくれるのはうれしい。だけど断るだろうと踏んでいたのを見事に裏切られた。だって……工藤が合コンなんて想像もできない。

「似合わないけど、そういうのに参加するのはいいかなあって」
「うん」
「別に彼氏が欲しいとかじゃなくて、10人くらいでご飯食べるだけなんだけど」
「うん」
「みんな仲良くしてくれるの。あ、服も昨日選んでもらってね」
「うん」

 工藤は楽しそうだ。今まで他の奴らに嫌われていた訳じゃない。工藤が近づかなかっただけだ。そして皮肉にも、人脈を伸ばそうと思ったきっかけは、たぶん俺。

「ちょっと緊張する」

 俺は嫌だ。口には出さないけど、止めたかった。これはきっとヤキモチだ。恥ずかしくなって、その言葉を頭から除去した。

「大丈夫だよ。いつも通りに喋ればいいんだからさ」
「うん!」

 工藤は少しだけ変わったように思う。たぶんいい方向にいってる。以前は自分が“友達”だと決定した人にしか近づかなかったようだ。
 だから行かせるのが正解だ。だけど、俺はこの変化をどう受け止めればいいかわからなかった。何かを恐れていた。


「なんなんだよ急に」
「まあいいじゃん。暇なんだろ」

 佐久間は驚きながらもドアを開ける。確かに家に上がったのは小学生のとき以来だった。部屋は特になにも変わっていない。こいつ自体何も変わっていないのだから当然だ。
 俺は合コン当日になって、なぜか佐久間の家に行った。別に俺は関係ないのだけど、なんとも落ち着かない。今は16時。もうすぐ始まるのだろうか。

「へ〜、工藤さんが合コンね」

 佐久間はベッドに仰向けになって、本気で寝そうだ。午前練でお疲れなのかもしれない。

「まあ嫉妬すんのは普通じゃねーの。付き合ってんだし」
「はっ? 付き合ってねえって」
「えっ?」

 佐久間はばっと起き上がって俺をまじまじと見た。ちょっと待て、お前まで勘違いしてたのか。

「…………」
「なんだよ」
「いや、なんかごめん。友達だね、うん」

 口に手を当てて、気まずそうに謝られた。確かに昼休みはずっと一緒にいるけど……それは違うだろ。そういう風に見えてただけで、俺らは別に“付き合って”ないだろう?

「あー、ひとこと言わせてもらうけど」

 長い沈黙を佐久間は破った。こいつも何か考えていたんだろうか。クッションを抱きしめ、猫背になっている。目線が合わないまま、ぽつりと口を開いた。

「お前が今日うちに来たのは、焦ってんからじゃねーの」

 ……何を?
 思いっきり顔に出てたらしく、佐久間はもう知らねえと言ってまた寝転がった。よくわからないが、バカに呆れられたようだった。少し腹が立つ。
 それでも佐久間の言ったことは芯ををついているような気がする。確かに俺は焦っていた。だけど気持ちに思考がついていかない。
 気づけばウトウトして、男2人で眠りに落ちていった。俺らが起きたのは、電話がうるさく鳴ったからだ。工藤からの。


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