恋する乙女というのは、私ぐらいの年頃だったらたくさんいるだろうな、とは思ってはいたけど、彼女みたいなのは初めてだった。可愛くて、ふわふわの髪、小さい体。なんだか浮世離れしたようなロマンチックな少女。制服を着せとくのは勿体ないと思う。

「聞いてほしいことがあるの」
「なに?」
「……おんなじクラスです」
「知ってるよ」
「し、しかも、斜め前の席」
「うんうん」
「あたし、授業なんて聞こえないかも」

 顔を赤らめて、というより、怯えるように早口を言ったあと、彼女は自分の席を振り返る。全くわからないが、彼女の心臓はすごくやばそうだ。
 彼女はクラスメイトに恋をしている。去年も同じクラスで、片思いの因縁かそれとも運命か、また同じクラスになった。そうして今、私たちは窓際の後ろから、黒板の近くでおしゃべりしている彼を見ている。私は観察しているが、彼女に至っては見つめているというのが正しい。
 彼の周りには、小さな人だかりができていた。

「なんか、最近アイツ有名だよね」
「……うん」
「何気に頭良いのが利いたのかな。ギャップ?」
「そんなこと、あたしは知ってたわ」
「そうなんだ」

 彼女の瞳に炎が映る。拳を握りしめて、めらめらと男女問わず人だかりを睨めつけている。例えるなら、羊が上目遣いするような感じだ。

「嫉妬だ」
「うん……くるしい」

 初めて彼女に会ったとき、私は彼女が恋をしてるとは全くわからなかった。恋も知らないような少女だと、甘い雰囲気に囲まれた彼女を見て感じた。
 しばらくして親密になって、彼女の行動に彼が関係しているのを見つけたときは、驚いたものだ。表情も、態度も、すごくわかりにくい。本人とは話しかけもせず、偶然そういう機会があっても、まるで興味がないような顔で接するのだ。今だって、こうやって一番遠い場所から彼を眺めている。

「嫉妬っていうのは、欲があるから生まれるんだよ」
「そうだとしても、どうでもいいの」

 私が彼女を見ても、彼女は彼を見続けている。そこには確かに愛情があるはずなのに、彼女の内側には、吹っ切れたような感情が渦巻いている。恋に溺れているようで、それとは距離を置いて冷静に見ているのだ。
 私は、昔言ったことをまた言った。

「……話しかけなよ」
「いや。いいの、見てるだけがいいの」
「それじゃ何にもならないよ」
「だから、それがいいの」
「嫉妬してるじゃん。それは、近づきたいってことでしょ。恋人になりたいってことでしょ」
「違うよ。見ていたいだけ」
「それは、恋」
「恋じゃない。好きなだけ」

 それは恋だと、私は思う。こんなに可愛いのに、私も可愛いよって言っているのに、彼女はそれを裏切る。私は気づかれないよう、小さく溜め息をついた。
 アイドルに恋するのと同じ感覚なんだろうか。それでも相手に近づくために手紙を書いたり、コンサートに行ったりするだろうに。それをしようとしない、彼女は彼の世界に入りたくないらしかった。彼が汚れるとか、そんなバカなことを言っていた。
 彼女の内側にあるものはなんなんだろう。彼が彼女の前から姿を消すとき、彼女は泣くんだろうか。恋じゃないと言い張りながら泣くのを、私は見ているだけなんだろう。つまらない恋の行方は、どこまでも平行線でいく。知っているのは私だけだと思うと、ふと悲しくなった。

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