紺色に大きな花が散りばめられた浴衣、黄色の帯に添えられた小さな手、結わえた髪を飾るかんざし。一瞬、誰か分からなかった。ステージだけがキラキラと眩しくて、前に陣取っていた生徒たちが、一斉に騒ぎ出す。
 工藤が、あんなところにいた。揺れ動く生徒の頭で、見えなくなっていく美少女。俺はなぜか、突き放されたような気がしていた。

「矢崎おはよー! どうよ、昨日の俺の活躍ぶりは」

 正門近くになって、不意に肩に手を回される。元はと言えば、全部コイツのせいだった。

「……佐久間、お前なあ!」
「あ、浴衣コンテストのこと?」
「なんで工藤が出てるんだよ」
「いやあ、人いないから知り合い1人出せって先輩に言われて。うちのクラスで似合いそうなの、工藤さんしかいないしさー。おかげでかなり評判良かったぜ!」

 朝っぱらから佐久間のハイテンションが耳に障る。昨日の夜、散々打ち上げでもしたんだろう。軽く流して、俺は肩の手をどかした。

「だからって、俺に言ってくれてもいいじゃん」
「工藤さんは矢崎のものじゃないもん〜」

 ぐっと言葉に詰まる。工藤に言われた「束縛」を思い出して、顔が熱くなるのが分かった。

「それに、工藤さんなりのサプライズだったんだよ。矢崎のためでしょ」
「……なんなんだよ。あーもう全然喜べない」
「なに怒ってんだ? あっ工藤さーん! おはよー!」

 佐久間が手を振った方向に慌てて振り返ると、周りの生徒たちも同じ仕草をしたのが見えた。ただでさえ佐久間は目立つのに、工藤は手を振り返して走ってきた。話題の2人が揃ってしまい、視線が集中する。

「ヤザキ、佐久間くん、おはよう」
「……目立ってる。早く教室行こう」
「あれ。ヤザキ怒ってる?」
「今日は機嫌が悪いみたいだぜー」

 けらけらと笑う佐久間を睨むと、ウインクして返ってきた。こいつ、絶対こうなることわかっててやったな。
 俺は工藤の手を握るのを躊躇して、先頭を切り、早足で人混みを抜ける。待ってよと言う2人は、教室に入っても視線を集めていた。工藤はいつの間にか背後からいなくなっていて、クラスの女子に昨日の話を振られている。

「人で工藤さんが見えなくなっちゃった。まあ俺の手にかかれば、こんなもんさ」
「……お前さ、俺をからかってるだろ」
「違う違う。矢崎だって少しは予想してただろ。こういうことが有り得るって」
「だからって!」
「工藤さんのためだって思わねーの?」
「……それは工藤が決めることで」
「矢崎は関係ないんじゃね?」

 俺が顔をこわばらせたのを、佐久間は見逃さなかったらしい。一呼吸置いて、歯を見せて笑った。
 どうして、俺がこんな奴とつるんでいるのかと言うと。それはたぶん、腐れ縁と言うだけでは、理由が足りない。


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