「…なぁ、居るんやろ?」


三角座りをして脚を抱え込み、その間に顔を埋める。
ドアの向こうにはきっと蔵ノ介が立っているのだろう。


私は俗に言う引きこもり、落ちこぼれという奴だ。
高2のときにイジメにあって、それ以来家から出なくなった。
蔵ノ介とは家が隣同士の幼なじみというやつで、小中ずっと一緒だった…それは高校でも同じことで。

蔵ノ介に密かに思いを寄せていた私は必死に勉強して同じ高校を受けて見事合格。

蔵ノ介も「よかったな!」と言って自分のことに喜んでくれた。

でもいつの間にか気が付くと、

ー白石くんと幼なじみやからって、ウザイねんー

とイジメが始まって、初めは友達も私を支えてくれていたから、負けちゃいけないと学校に行ってたのに。

ある日私の友達が蔵ノ介と付き合い始めたと噂が流れた。
どうもそれは本当のようで、次第に蔵ノ介との時間は減っていき、それと比例するかのように不安は大きくなっていく。

そして…、その友達が私と居たのは『蔵ノ介に近づくため』だと知ったのは、2年の秋だった。

心にぽかんと大きな穴が開いたような虚無感に襲われ、そして学校に行くことをやめた。








−ドンドン、ドンドン−

「お願いや、出てきてくれへんか?」

蔵ノ介には分からないよ、いつもみんなに慕われて、疎まれたことがないのだから。

『うるさいうるさいうるさいっ!』

耳を塞ぎドアの向こう側に向かって叫ぶ。

−ドンドン、ドンドン−

それでもドアを叩く音は止まない。

「しんどいときに側にいてやれんでごめん。お前を裏切るような事して…」

「嘘だ!私のことなんかどうでもよかったんでしょ、彼女もできて、やっと幼なじみから解放されると思って清々したに違いないよ!」


「違う!」


私の声を遮るように叫ぶ、初めて聞いた蔵ノ介の怒鳴り声。

−−好きで付き合ってたんちゃうんや…、アイツがお前をいじめとった本人やと聞いて、問い詰めたら「付き合わんとあの子にもっと酷いことしてやる」て言われてな、正直クラス離れとるから完璧に護ってやる自信がなかった俺は条件を呑んだ−−



「こんなん言い訳にしかならんよな、ほんまにすまん」




なに、それ…そんなの聞いてない。

それじゃあ蔵ノ介は…?

「俺はずっと…君が好きだったよ」

カランコロン、鍵がはずれる音がした。








One man live
(その音が今、君の声になる)




ガゼルと少年様に提出


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