「なぁ、明日休みやしどっか行かへん?」
事の発端はこの幼なじみの一言だった。
私と白石蔵ノ介は家が隣同士と言うよくあるパターンで、昔からいつも一緒。
昔のアルバムを見ていると私の隣は蔵ノ介で蔵ノ介の隣は私。
それは中学になっても変わらず、蔵ノ介がテニス部部長になってからめっきり会うことは減ったが、それでも会えば手を振るし、家にも遊びに行ったりしていた。(別に蔵ノ介が居なくても友香里ちゃんがおるし)
そして蔵ノ介は先日全国大会を終えてテニス部部長を引退した。
結果は満足のいくものでなかったが、それでもやり尽くしたので悔いはないと笑顔で語っていたけれど、私が思うに彼は影で涙を流したと思う。
彼は引退してからもクラスメートの謙也くんと一緒に部活に顔を出している。
推薦がとれたから余裕ぶっこいているなと思うが、他のみんなも同じ様に部活に行っているし、新しい部長の財前くんが心配なのだろう。
いつも通りに帰宅しようとしていると蔵ノ介に声をかけられて冒頭に戻る。
『明日みんなと部活行くって言ってなかったっけ?』
「いや、たまには遊びに行きたいな思て、どうせ彼氏もいないんやから暇やろ?」
『どうせ私は蔵ノ介くんみたいにモテないですよー。』
「はぁ?俺モテへんし。」
『嘘つけ、お前ファンクラブまであるんやで!私めっちゃ睨まれとったんやからな。』
「え、知らんかったわ。」
『その顔絶対知っとったやろ。』
そんなたわいもない話をしながら家の前に着き、めんどくさがりな私は明日は寝ときたいと言ったが、蔵ノ介は明日絶対出かけるからなと譲らず結局明日は蔵ノ介と遊園地に行くことになった。
※※※
「おはようさん」
『あの、めちゃくちゃ早ないですか?』
今午前7時、待ち合わせは9時だったはずだ。
「早起きは三文の徳って言うやん。」
『勝手に待ち合わせ時間変えるな。私今起きたとこやし。』
「おん、そうやろ思た。別にゆっくり着替えてええで。」
そう言いながら勝手に上がり込んでくるコイツに腹が立ち後ろから跳び蹴りしてやったら、おもいっきり階段の手すりで頭打ちよって転がっていた。ざまぁみあがれ!
「ほんまどないしてくれんねん、頭凹んだんちゃうか?」
『大丈夫だ、問題ない。』
「問題あるわ、尋常やない痛さやったわ!」
只今家の近くの公園に居ます。
なんか遊園地行くのめんどくさなったし、自業自得な蔵ノ介くんが痛い痛いうるさいので、氷で冷やしていたり、ご飯を食べたりしていたら昼近くになったので、また今度と言うことになった。
「それにしてもこの公園懐かしいなぁ。」
『ほんまやな。よく遊んどったな、休みの日とか。』
「そうそう、ずっとこんな風に手をつないでたな。」
そう言うと蔵ノ介は私の手を取りするりと指を絡ませた。
男なのに凄く綺麗で長い手で羨ましいけど、手のひらは肉刺が出来ていたりこれまでテニスに一生懸命励んできたんだと感じさせる感触だった。
あの頃はまだ小さな手のひらだったのに、いつの間にこんな大きくなったのだろう。
そんなことを考えていてふと蔵ノ介を見ると、私の顔を見つめながら微笑んでいたので、不覚にもどきりとしたのを誤魔化すために、この公園によく来るアイス屋さんを指差し食べようやと誘った。
「今11月やのに、まだ居んねんなあのおっちゃん。」
『でも冬って意外とアイス食べたならへん?』
「なるなる!ほな買ってくるから待っといてな。」
お金を渡そうとしたら「奢ったるから」と走っていってしまった。
私が言うのも変だが、何故あいつがモテるのに彼女を作らないのか分からない。
もうテニスに打ち込む日々は終わり、あの謙也ですら彼女が出来たと騒いでたのに。
「ほれ、いつもの抹茶や。」
『おおきに、蔵ノ介はいつものバニラやな。』
こんなに綺麗な顔立ちをしている人は蔵ノ介意外に見たことがないと思う。
アイスを食べながら考えていると肩を叩かれた。
「なぁ、抹茶頂戴や。」
『ええよ、はい。』
アイスを差し出そうとするとそれを制し、蔵ノ介は私に顔を近づけ唇についていたアイスを舐めとり、そのまま口づけた。
『な、なななにしてんの!』
「何ってアイスもろたんや。抹茶もうまいな。」
『じゃあ普通にこっから舐めてよ!』
すると蔵ノ介は私の耳元に口を近づけた。
「そろそろ気づいてや。」
『な、何によ?』
「俺が彼女作らんのは好きな子が居るからや、その女の子は全然気付いてくれへんねんけど。」
『もしかしてそれって…。』
「そうや…、」
要するに、お前が好きってこと
「ほんまに気づくん遅いんやから。」
『そんなん分かるわけないやんか!』
「ほなこれからよろしゅうな彼女さん?」
ちゅっ、
「ちょ、いきなりキスせんといてや!」
要するに、お前が好きってこと