08


『仁王くん遅い!』


「すまんすまん、ちょい買い忘れたもんがあってのぅー、」


息を切らす様子もなく、走ってきた仁王くん。
テニスで鍛えた体力は伊達じゃないんだね。


「お、その脇に抱えとるでかいもんはなんや?」


白石くんに指摘されて初めて気がついたけど、仁王くんはほんとに私の半分くらいの大きさの袋を抱えていた。


「あー、家に帰ってからのお楽しみじゃ。」


『あらそう…』


兎に角時間がかかりすぎて今は日もとっぷりと暮れてしまった。


『とりあえず、今日晩御飯どうする?』

「この荷物の量やから出来合いもんかなんか買って帰らへん?」

「俺はどっちでもええ。」


どっちでもいいが一番困るんだと仁王くんを睨みながらも、白石くんの言った通りに惣菜やおにぎりなんかを買って家で食べることにした。













「皿此処に置くぜよー!」


『あ、うんわかった!』


家に帰ると、まずお腹が減ったと言うことで夕食を食べてそれから買ってきた雑貨などの整理に追われた。


「ちょ、なんで目覚まし時計が三つもあるん?」


『あ、それ私のだからそこらへん置いといて!』


「おんー、てちゃう!一人で三つ使うんかい!?」


『私朝弱いって言ったじゃんか、だから最低でも三つはかけないと無理です…。』


へぇーとか言いながら作業をする白石くんを横目に、仁王くんが居ないなーと思い見ると、ソファーの影で人形と戯れていた。
「おまんほんとさわり心地ええのー」

すりすりと頬を擦り寄せる仁王くんになんか怒りを通り越して呆れが生まれる。


『…ちょっと仁王くんも手伝ってよ、白石くんが仁王くんの仕事もしてくれてんだよ!』


「あ、見つかってしもた。」


何が見つかってしもただよ、人形の手を挙げながら言って可愛く見せようとしても駄目だからね!


「ちぇ、わーった、ちゃんと手伝っちゃるから待ちんしゃい。」


やっと仁王くんはよっこらせと腰を上げ人形を私に押し付けて白石くんの方へと歩いていった。

それにしても、この顔なんか見てると和むなー。

お、ふわふわしてて気持ちいい…。ぎゅっと抱きしめたり顔を引っ張ってみたりしていたら仁王くんと白石くんがいつの間にか作業を終えて戻ってきていた。


「今度は真琴がさぼっとったのぅー。」

「でもむちゃ幸せそうな顔しとったで真琴ちゃん。」


え、どんな顔してたんだと自分の顔を触ってたら二人ともクスッと笑って頭を撫でてきた。


ちなみに仁王くんにこの人形ちょうだいと言ってみたが、「俺のじゃき駄目!」と却下されてしまいました。


そのあと白石くんから歯ブラシを受け取り(私好みの水色だった)、仁王くんの歯ブラシはなんとピンク色でクマが書いてある子供用のやつで「俺だけ可笑しいじゃろ!」と嘆いていた。

でも何気なしに私には気に入っているように見えたんだけどなー。



(どや、俺が選んだ歯ブラシ気に入ってくれたか?)

(突っ込みどころが多すぎるダニ、子供用はさすがに嫌じゃ。)

(ところで仁王くん、あの人形真琴ちゃんに似てたから買ってきたんやろ?)

(さぁ、どうじゃろな?白石にもあの人形渡さんぜよ。)




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