ちいさくなったよお | ナノ
更新した所の頭

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ふと目が覚めて、アルムは起き上がる。
隣で安らかな寝息を立てている恋人は、今だ小さなままだった。

この姿も見る度抱きしめたくなるほど可愛らしくて堪らないのだが、そろそろいつものルカが恋しくなってきた。
口づけで戻ってくれないかなあと触れるだけの口づけをする。
唇を離す時に頭を撫でてやると、ふわり。子供特有の甘い香りがした。

様子を窺っても、やはり姿は何も変わらない。
しかし、代わりにルカの目が開かれた。ゆっくり、ゆっくりと。

「おはよう」

いつもの調子で挨拶をしたが、ルカは何の反応もしない。
起き上がり、きょろきょろ周りを見渡した後。困ったような顔をして口を開いた。

「あのう、どちら様でしょうか?ここは一体…」
「………?」

投げかけてきた言葉の意味を理解し、自分の置かれた状況を把握するまで数十秒かかってしまった。

(中身も子供になってる…??)

答えを出した後、無意識に叫び声が出てしまいしまったと思う。
アルムの声に驚いたルカがびくんと肩を震わせて固まってしまった。こちらを見つめる瞳は、不安に揺れている。

「僕はアルムだよ。きみのお母さんの友達の子供なんだ」
「母さまの?……そうだ。母さまと父さまと…兄さまはどうしているんですか」

今のルカにとってアルムは赤の他人。とりあえず不安を取り除いてあげようと、一応知人である事を装ってみたがそれも悪かった。
家族がいない事に気が付いてしまい、瞳にどんどん涙が溜まっていく。はぐらかすように慌てて抱き締めた。

「いい?今から言うこと、よーく、よーく、聞いてね」

できるだけゆっくり言って時間を稼ぎ、なぜこんな所にいるのか、子供でも理解する事のできる理由を考える。
家族の病気療養ならどうだろうかと思い、言ってみた。加えて、良い治療のために遠方に行ったというのも。
使用人がいるだろうなんて突っ込んだ事を言われるのが頭をよぎったけれど、この状況ではそこまで気は回らない筈だ。
一通り話した後、抱き締める為に回していた腕をはなして、今度は言い聞かせるように手を取った。

「そんなに重い病気じゃないけど、治るのに時間がかかるんだって。治ったらお迎えに来てくれる約束だから、それまで僕と一緒に待っていよう?」

返事は一応「はい」と返ってきた。いい子だ、と頭を撫でてやる。撫でられるのが好きなのか、くすぐったそうに笑ってくれた。

「じゃあ、改めて自己紹介。僕はアルム。よろしくね」
「ぼくはルカです。アルム兄さま、これからよろしくおねがいします」

一人称が“ぼく”というのが何とも新鮮だ。それに“アルム兄さま”と来たものである。
敬称は違えど、今まで何度頼んでも言ってくれなかった呼び方。
正確には一度だけ言われたような気がしないでもないのだが、完全に油断している時だったのできちんと聞き取れなかったのだ。
ルカ自身もそれを分かって言ったのかもしれないけれど、後にも先にもお兄ちゃんと呼んでくれたのはその1回だけ。
こんなにもあっさりと呼んでくれる事が、嬉しくて堪らなかった。今ならどんな呼び方もしてくれる気がする。

「ルカ、そんなに気を遣わないで。アルムでいいから」

呼び捨ても捨て難くて言ってみたが、ルカは首を横に振った。

「いけません。身分関係なく、誰にでも敬意を持って接するようにと母さまが言っていました」

しっかりしている。こんな風に躾けられるなんて、さぞかし人の出来た母親だったのだろうと思った。
ならば予てからの夢だったこちらの呼び方でと、アルムは再び。

「じゃあ、じゃあさ。“アルムお兄ちゃん”は?…僕、兄弟がいなくて。一度でいいからルカみたいな年頃の子にお兄ちゃんって呼ばれてみたかったんだ」
「え…」

それにも首を横に振りかけたが食い下がって。お願い、と手を合わせ頼み込んでみる。
すると暫く考えて「1回だけなら」とルカは口を開いた。

「…ア…、アルム…お、にい……、ちゃん」

小さな声でたどたどしく。けれども、しっかりとその声はアルムの耳に届いた。
ありがとうと微笑み、嬉しさでもう一度だけ呼んでと頼んだけれど、1回だけの約束です。と取り合ってくれない。
しっかりしすぎているのも困りものだなと、アルムは苦笑した。
___
FC版ではぼくだったし…いいかなって…
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※みんなにもだいぶ慣れてきたショタルカちゃん

空を駆けるペガサスを、キラキラした目でずっと見つめていたルカ。
それが嬉しかったのか「ご一緒にいかがです」なんてクレアが言うものだから、ルカはもう大はしゃぎだった。

窓の外から地上に降り立とうとしているペガサスを見つけて、アルムは部屋を出る。
彼がちょうど外に出たのとクレアが愛馬から下りたのは、ほぼ同じタイミング。
アルムの出迎えに気が付いて、目を細めながら手を振った。

「あなたの大事なアルム兄様がお迎えに来ましてよ?」

言って、クレアは一緒に乗っていたルカを抱き上げペガサスから下ろしてやる。
ルカはしっかりクレアに頭を下げて礼をし、それから傍に来ていたアルムに嬉しそうに抱き付いた。

「クレア、どうもありがとう。大変じゃなかった?」
「このくらいお安い御用ですわ。ルカ、いつでも乗せてさしあげますから、お好きな時に声を掛けてくださいませね」
「はい!クレア姉さま。本当にありがとうございました!」

_____

部屋に戻った後、早速ルカはペガサスに乗った感想をアルムに聞かせ始める。

「建物も、木も、ぜーんぶ小さく見えたんです!それに、色んなものが…」

興奮冷めやらぬといった雰囲気で、こんなに小さいんですよ!と手で輪を作って見せたり、
あんな色の鳥がいたとか面白い形の雲があったとか、身振り手振りを交えて見たもの全てを事細かに教えてくれた。

「そうかあ。楽しくて良かったね」
「はい!今度はアルム兄さまと乗りたいです!きっと、もっともっと楽しく乗れると思うんです」

ペガサスは男性を乗せたがらない。なのでアルムとルカが二人でペガサスに跨るのは望み薄だ。
それはアルムも分かっている。けれど、花が咲いたような笑顔を向けて言われてしまえばこう言う他ない。

「ルカ!僕、絶対ペガサスに乗れるように練習頑張るから!」

結局乗る事は叶わず、項垂れるアルムを「そんなにしょんぼりしないでください」と撫でるルカの姿は慈愛に満ち溢れていたとか、いないとか。
_____
もう戦争なにそれおいしいの状態でいいすか
_______


今日も今日とて、アルムはルカの手を引いて拠点を歩き回っていた。

街とは違い娯楽が少ないので、じっとしていると退屈なのだ。主にアルムの方が。
幼馴染達を巻き込んで鬼ごっこをしたり、木登りを教えたついでに食べごろのオレンジの見分け方も教えて一緒にコッソリ食べたり。
色々と遊んだ後にルカが頻繁に目を擦り始めたので、そろそろ昼寝させるかと部屋に戻るところで。

「やあ!二人で散歩かい?」

溌剌とした声で挨拶をしてきたのはフォルスだ。小脇に訓練用の槍を抱えているので、鍛錬に行こうとしているらしい。
二人もフォルスに挨拶をして、暫し雑談をする。

「フォルス兄さま、今日はパイソン兄さまは一緒ではないのですか?」

辺りをきょろきょろ見渡しながらルカが尋ねると、フォルスは困ったように笑って。

「ああ、鍛錬に連れ出そうとしたら部屋に籠城されてしまってね。出てこないんだ」
「あはは…パイソンらしいや」

奥底の方では元の姿の記憶があるのか、ルカはフォルスとパイソンに懐くのは早かった。
曰く、フォルスは楽しい話をたくさんしてくれるし、パイソンは色々な物を作って見せてくれるから好きとの事で。

懐きの早さに少し嫉妬してしまったものの、いちばん大好きなのはアルム兄さまです!と満面の笑みで言ってくれたので、そんな感情は全て飛んで行った。

「そうだ!ルカならパイソンを連れ出せるかもしれない。力を貸してくれないか」

言って、フォルスはアルムの方を見る。ルカを借りても構わないか、という事だろうか。

「ルカ、どう?」

アルムはルカの背丈に合わせてしゃがんで聞いてみる。すると胸に拳を当てて。

「まかせたまえ!」

フォルスを真似たのか、勢いのある頼もしい返事をしてくれた。
真似をされた本人は満足げに笑って。

「よし、それでは作戦会議だ!!」

________

今のルカにはあまり複雑な事を言っても理解出来ないと思ったので、単純にパイソンを外に遊びに誘ってほしいと頼んだ。
そして、部屋から出てきて外に向かう所を捕まえる、という作戦。

ルカがパイソンの部屋のドアをノックする。アルムとフォルスは、離れた所でその様子を見守っていた。

「パイソン兄さまー、ルカです。開けてください」

間延びした返事が聞こえ、しばらくしてドアが開き、隙間からパイソンが顔を出す。

「あれ。ルカ一人?大将はどうしたの」
「アルム兄さまはクレーベさまの所に行きました。ご用があるそうです」

いつも自分がくっついているので、一人で来れば当然この疑問は浮かぶだろう。そう思って、アルムはあらかじめルカに言い聞かせておいた。
ちなみにクレーベを様付けしているのは、アルムやマチルダを除く全員がそう呼んでいるせい。

「ふうん…。ま、入りな。そのまま立ってるのもなんだし」
「えっ…。いいえ、その。ぼく…」

そのまま遊びに誘うように言われていたルカはひどく慌てて首を横に振ったけれど。

「のんびりさ、茶でもしようよ。とびきりの淹れたげるからさ」
「パイソンにいさまの、おちゃ…」

ぐらり。ルカの意志が少し揺れた。
パイソンの淹れるお茶は、精神はそのままだった頃のルカに習った淹れ方だ。
本人が好んでやっていた淹れ方なのだから、やはりというか当然というか。この小さなルカの胃袋を鷲掴みにしてしまったのである。

「うーんと…でも、でも…、えっと…」

悩むルカに追い討ちをかけるように、パイソンは笑って。

「甘くて甘くてとってもおいしーいお菓子もあるけど?」

この一言で、ルカの意思は崩れ去ってしまった。いただきます!と元気に返事をして、パイソンの部屋へと入っていく。

_____

「ああっ!ミイラ取りがミイラに!!」
「いただきますって言ってたし、甘い物で釣られたんだろうな…パイソンの方が上手だったかあ」

アルムは頭を抱えたフォルスの肩をぽんと叩いて、僕でよければ鍛錬に付き合うよと告げた。

二人の鍛錬が終わった頃。
満腹になり幸せそうに眠っているルカをおぶったパイソンがお前らもう少し気配消せよ〜。と、駄目出しをしに来たのはまた別の話。
______

ミイラになったショタルカちゃん

ルカはフォルスの差し金だとパイソンには初めから分かっていた。

(あんなに気配ダダ洩れにしてたら出れるモンも出れないって)

部屋から出たら彼に捕まる事は確信していたので、ルカをお茶とお菓子で丸め込む事にしたのである。
湯気の立つティーカップと砂糖漬けがふんだんに使われた焼き菓子を目の前に置かれて、ルカの目はきらきら輝いている。お願いの事などどこ吹く風の雰囲気だ。

「熱いからよーく気を付けて飲みなよ」

返事をした後、ルカは手を合わせていただきますをして、カップに手を伸ばす。言われた通りによく冷まして、一口こくんと飲み込むと顔を綻ばせて。

「おいしいです」
「そりゃ何より」

次は焼き菓子を頬張ると、またおいしいと呟いた。
結構なペースで口を動かしているルカを見て、上手くはぐらかせたと思ったのも束の間。
目の前の子供はハッとした顔を見せた後、焼き菓子の最後のひとかけらをお茶で流し込むと。

「パイソン兄さま」
「ん、なに?」
「お外に遊びに行きましょう。せっかくのいいお天気ですから」
「……っ!!?」

飲みかけていたお茶が変な所に入ってしまい、咳込んでしまう。
話題を逸らすためにパイソンは焼き菓子を追加で持ってきてやろうとしたけれど、ひとつでお腹いっぱいですと断られてしまった。
元の姿ならあと2つ3つはいける筈。今だけ目の前の小さな体が恨めしいと思った。


幼馴染は諦めてしまったやもしれないが、それでも外に出れば鉢合わせる可能性は捨てきれない。
頭をフル回転させて外出をお断りする方法を考え部屋を見回していると、目に入ったのは時計。

(………あ)

懐いているという理由でしょっちゅう託児所にされるパイソンは、ルカの生活のリズムを把握している。
今のこの時間なら、多少強引でも事は運べるだろう。
いいお天気。これと“クレーベの所に行っている”アルムも理由に組み込んで。

「ルカ。昼寝しよう、昼寝。せっかくのいい天気なのに、あえて部屋で昼寝するんだよ。
最高の贅沢じゃん。腹いっぱいになってすぐ動くと具合も悪くなるし。
クレーベ様の所に行ってる大将もさ、ルカの事探して歩き回らなくて済むから助かると思うけどなー」

多少強引どころか無茶苦茶な物言いになったが気にしない。
こういうのは勢いが大事だと、まくし立てるように言って迷っているルカを腕の中に収め、ころんとベッドに横になり目を閉じた。

「パ…パイソン兄さまぁ」

困ったような声色で名前を呼ばれた後、ペタペタと頬に手の感触。ささやかな抵抗だろうか。
知らん顔を決め込み寝たふりをしてしまうと、ほどなくしてそれは無くなった。

ゆっくりと薄目を開け様子を窺う。満腹になったお蔭か幸せそうな寝顔。
ほとぼりが冷めるまで自分も寝てしまおうと、パイソンは再び目を閉じ、ルカを枕の代わりにするかのように強く抱き直した。


___________

お洋服を買おう

「ねえ、ルカはおうちではどんな服を着ていたの?」

言ってから、家族の事を思い出してべそをかいてしまうだろうかと少し慌ててしまう。
しかしルカは泣きだす様子もなく人差し指を顎に当て、考える仕草をしてみせた。
ちなみに、今着ているのは安価で流通している生地が使われた、飾り気のない一般的なもの。

「ええと、赤い服と、白い服と…」
「あ、ちょっと待ってね」

恐らく上着とシャツの事かもしれないが、あいまい過ぎてよく分からない。
言わせるなら絵に描かせたほうがいいだろうと考え、アルムは紙とペンをルカに手渡した。

「覚えてるだけでいいから、描いてみてほしいな。ほら、聞くより見た方が分かりもいいし」

ルカは「はい」と頷いて、ペンを握り紙とにらめっこを始める。
時たま独り言をつぶやくのを聞きながら、待つこと数分。

「アルム兄さま、できました!」
「どれどれ……わぁ、よく描けてるね。ルカは何でも上手ですごいなあ」
「…えへ…」

頭を撫でると、ルカは得意気に笑った。
ルカが描いたのはジュストコールにシャツ、そして半ズボンだろう。
惚れた欲目を抜きにしても上手く描けている、とアルムは思っている。

「ありがとう。よく分かったよ」

じゃあ早速買いに行こうね。と笑いかけてやれば、途端にルカは目を丸くした。

二人がやってきたのは、少し大きめな街の、これまた大きめな服屋。店構えも贅沢なので、きっと探しているものもあるだろうと扉を開ける。

当然だが、店内は貴族と思わしき服装の客が多かった。少し場違いな雰囲気だ。
二人を見た店主も訝しげな顔をしている。

「この子の服を買いに来ました。ええと、予算はこのくらいで」

アルムはそれを気にする様子もなく袋を勘定台の上に置いて、声を掛けた。

「これはこれは、ありがとうございます。どのようなものをお求めでしょう?」

置かれた袋を開いてみた店主は感嘆の声を上げた後ガラリと態度を変え、にこやかに対応を始める。
袋の中身は金貨数枚だったので、上客と見なされたのだろう。こういう店は現金なものだんだなとアルムは思ったが、ルカの前なので何も言わなかった。


「ルカ、着ていたのと似ている服はあるかな」
「ええと…」

周りを見渡した後、目的の物を見つけたらしく「あ」と声を上げて。

「アルム兄さま、ありました!」
「どれ?教えてくれる?」
「はい!」

元気な返事をしてからアルムの手を引いて歩き、これです!と商品を指差した。
見てみれば、赤いジュストコート。ルカの描いた絵とよく似ていて、やっぱり上手く描けていて偉いなとアルムは一人で感動していた。

「うんうん、ならこれを買おうか」

次は下履きだと、上着を見つけた時と同じように聞いてみる。
ルカも同じように辺りを見回したが、首を傾げてしまった。見つからない、という事だろう。
無いものは仕方がないので、似ている型のものを探すように言ってやると。

「これです!」

ルカが指を差した先を見た瞬間、アルムの動きが止まった。
値段に驚いた訳ではない。品物に驚いたのだ。

(……かぼちゃパンツじゃないか……)

隣に並んだ商品と見間違えているのだろうか、とも思ったので確認のために「本当に似てるの?」と聞いてみると。

「はい!ここが少しふわふわですが」

言って、“ふわふわ”している部分を指した。かぼちゃパンツが確定した瞬間である。
履いていたというので、絹のタイツも合わせて購入して。
上機嫌の店主に何度も何度も頭を下げられながら、二人は店を後にした。

「アルム兄さま、ありがとうございます!」
「どういたしまして。あれを着てるルカ、とっても格好良かったよ」

帰路、二人で手を繋いで歩きながら試着の時の事を話す。
本当は天使のように可愛らしかったのでそう言いたかった。
けれども男の子なのだから、可愛いよりも格好いいの方が喜ぶかなあとアルムは思ったのだ。

そしてアルムの思った通りルカは嬉しかったのか、はにかむように笑みを向けた。
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いちおうおしまい
お金は換金と草刈りを頑張って貯めました






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