デートさいご | ナノ

最後と言い張る



日が沈み始め、街並みが橙色に染まってきた。
大盤振る舞いを見せてくれた夫婦に充分礼を告げて、二人は店を後にする。

ケーキを頬張っているルカの顔はいつまでも見ていられるくらい可愛かった。

可愛かったのだが、アルムには心残りがあって。
「口の端、クリームついてる」なんて言いながらそれを指で掬って舐め取る。
締めは悪戯っぽく笑って「間接キスだね」というのをやりたかったのだけれど、生憎ルカの食べ方は文句の付け所が無いほど鮮麗で、口の端どころか皿の上にすらあまり付いていなかった。

次は食べさせてあげて、口の端にわざとクリーム付けちゃおうか。そんな事を考えながら次の目的地へ向かう。

今度は複雑な道ではなく長めの坂道だった。
歩くにつれて民家は減り、比例するように勾配が急になっていく。

もう軽い山登りのようになっていたのだけれど、アルムもルカも行軍で鍛えられている。
そこまで苦には感じなかった。談笑しながら歩いて行くと、行き止まりには切り立った崖のような高台。

「良い眺めですね」
「でしょ。街が全部見えるんだ。あそこが宿、あの辺がさっきの露店。それから…」

下見をした後、何処に寄り道をしても目的地にたどり着けるように何度も街中を歩いて回ったので、アルムの頭の中には地理がすっかり入っている。

「全部調べたんだ。……ルカにいいとこ見せたくて」

目を見開いてアルムの指差す方を見ているルカに気が付くと、照れ笑いをしながら打ち明けた。

「僕、ちゃんとエスコート出来てた?」
「文句なしでしたよ。私には勿体ないくらいの、とても幸せな時間でした」

最後にありがとうを言い、きゅっとアルムを抱き締めて額に口づけをする。それから、いつもと変わらない穏やかな笑みをアルムに向けた。

「……アルムくん?」

いつもと変わらない。
そのはずなのだけれど、夕日の美しさが彼を引き立てていて。まるで絵みたいだなと見とれてしまう。
ずっと何も言わないものだから、ルカが不思議そうに首を傾げてアルムの顔を見つめていた。

「…いや、あんまり綺麗だから……見とれて」

ルカは景色に見とれていたと思ったらしく「滅多に見られませんからねえ」と夕日の方を眺める。
何だか気恥ずかしくなってしまって、アルムは俯いてしまった。

「あ」

俯いたところで、地面に馴染みのある花冠を見つけて思わず声を上げた。
茎を長めに摘んで、輪を作る。それから余った茎を輪に巻きつけて、指輪の完成。
ルカは何を作ったか分からなかったらしい。興味深そうにアルムの手のひらの中を見つめている。

「ルカ、手出して」
「?」

分からないながらも素直に出された手を取り、指に通すとそれはピッタリ付け根で収まった。

「花の指輪だよ。小さい頃よく作ったんだ」
「こんな遊び方があったんですね…初めて知りました」
「本当はちゃんとしたのを買いたかったんだけど、さすがに予算オーバーでさ」
「アルムくんが作ってくれたんですから、こちらの方がいいに決まってます」

指輪を見つめながら言う声は、この上なく弾んでいるように聞こえた。
それから、ルカも同じ花を摘み、自分の指に嵌められた花と摘み取った花を交互に比べ、手を動かしている。
見よう見真似で作ろうとしているらしい。

「できました!アルムくんも手を出してください」
「うん」

言われた通りに手を出すと、自分がしたと同じように指輪を通された。
輪は付け根まで進んだものの、アルムが作ったもののようにピッタリとはいかず少しぶかぶかしている。

「上手く作れたと思ったのですが…アルムくんのようにはいきませんね」

作り直します、と再び身を屈めたルカをアルムは制止した。

「いいよ。僕はこれがいい。ルカの初めてだから、大事に取っておきたいんだ。
……あ、押し花にしようか。解いちゃうのは悪いけど、そうすればずっと残せるし……いいかな?」

問いかけに頷いたのを見てからアルムは「じゃあ急いで道具を買いに行こう。店が閉まっちゃうよ」とルカの手を引き元来た道を行く。

買いに行った先でまた兄弟に間違われたアルムが宿に戻った後盛大にふて腐れてしまい、ルカが宥めるのに随分と難儀したのは、また別の話。



ダラダラ長くなりましたがお付き合いありがとうございました!
書きたい所かけたのでまんぞくさんです

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