アルムくん欠乏症 | ナノ
3
パイソンと小さくなったルカが拠点での待機を始めて数日が経った。
体は、一向に元に戻る気配を見せない。
離れてからそんなに日は経っていないなのに、ルカはすっかりアルムが恋しくなってしまったらしい。
「…アルムくん……」
気を紛らわすために読んでいた本を閉じて俯く。
それから、迷子になった子供のようにぽつりアルムの名前を呟くのを一日に何十回何百回と繰り返しているので、始終一緒にいるパイソンは正直飽き飽きしていた。
初めこそ大丈夫とか、死にやしないよとか色々気を遣っていたが、あまりに頻度が多いため面倒になってしまったのである。
「そんなに好きなの?大将は幸せ者だねー」
「それも否定しませんが、アルムくんはマイセン卿の大切な家族です。心配するのは当たり前でしょう」
「否定しないのかよ」
「しません。する必要もありません」
たまにつつけば、こんな風に惚気とも取れるような言葉が返って来る。
そしてまた本日数十回目の「アルムくん」が聞こえた。
全く以て面白くなく、最早胃痛がしてくるので一人でノンビリしたいのだけれど、そうもいかなかった。
最初の夜の事。
部屋はそう離れていないし、ルカも流石に一緒に寝てもらうわけにはいかないと言ったので、夜は各々の部屋で過ごす事に決めた。
パイソンは「寂しくなったらいつでもどうぞ〜」とからかい半分で手を振り、ルカの部屋を後にする。
気楽な一人を満喫していたのも束の間。
時計の長針が半周もしないうちにドアがノックされ、もしやと思いながら開けてやるとそこには枕を抱えて立っているルカの姿が。
トドメは蚊の鳴くような声での「パイソン、心細いので一緒に寝ていただけますか…」である。
それからは、もうずっと付きっ切りだった。
(暗いのが怖いとか一人で眠れないとか、もう立派な子供だよ…)
辛うじて頭は大人のままとは言っていたけれど、こんな姿ばかりを見ているので信じられなくなってくる。
「ルカ、茶淹れてくるけど飲む?」
「…あ、はい。いただきます」
「はいよ」
アルムくん地獄から逃れるために、パイソンはお茶を淹れてくることにした。
ルカはお茶を飲んでいる時と甘い物を食べている時が一番気が紛れるようで、その時ばかりは「アルムくん」の頻度が多少下がる。
それはもう、ずっと飲み食いさせていたいと思うほど。
お茶の用意にも大分慣れ、今ではルカに聞かずとも茶葉の適量が分かるようになってしまった。
(あーあ。早く元に戻ってくれねえかな。流石にアルムくん連発されるのはキツイわあ…)
ルカが元に戻るのが先か、それともパイソンの胃痛が悪化するのが先か。
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