マズイ。非常にマズイ
現状を言うと私は可愛らしくラッピングされた包みを持ったまま立ち往生している。さらに詳しく説明するとその包みは想いを寄せる彼へのプレゼントで、今日はバレンタインデー。そして今は夜。つまり私は彼へのプレゼントを用意したは良いものの渡す勇気が出せずに、彼に素直に(重要)想いを伝える絶好の機会を逃してしまいそうなのだ

もう空は真っ暗。このままでは今日が終わってしまう。しかし早く渡さなきゃと思えば思う程緊張が増して足がすくむ。ただ渡すだけだと言うのにこんなにも

「意気地無し」

自分に向けて吐いた言葉にため息をついて、プレゼントを大事に抱え込みながらずるずるとその場に座り込む。包みからほのかにチョコレートの香りが漂ってきて、渡す相手である彼のことを想った。

きっとあいつはお人よしだから、私以外の女の子から渡されるチョコも受け取ってしまうのだろう。ありがとう、そう言って嬉しそうに笑うのだ。ああ、ムカつく。私は欲しいのに。その暖かい笑顔が、温もりが、言葉が、全てが。その他大勢に向けられるそれとは違う、特別な、私だけの。でもそれを言ったら彼はどう思うだろう。
彼は自分のことでこんなに私が悩んでいることを知ってるだろうか。

「…ふーちゃん?」
「っ」

悶々としていたら、私の一番聞きたくて、でも今は一番聞きたくない声がした。ちょっと待ってよ、心の準備はまだできてない

「どうしたのよこんな所で。風邪引くぞ?」
「う、うるさいわね。あんたに言われなくたってわかってるわよそんなの!」

とっさに包みを後ろに隠してまたあまのじゃく発言。彼はいつものように困ったように笑う。違うの、本当はこんなこと言いたいんじゃなくて。心配してくれてありがとう、嬉しい。こんな簡単な言葉が出てこない口が憎らしくて唇を噛んだ。今日は、今日くらいは素直になりたかったのに。情けなくて悔しくて、涙が出てくる

「ふ、ふーちゃん!?」
「なによ、目にゴミが入っただけ!!」

駄目だ、私また

「放っておいて」

困らせたくない、そう思ったらさらに涙が溢れてくる。もう逃げ出してしまいたい

「…もう、帰るから」

俯いてそう告げると彼は踵を返して走り出そうとする私をその大きな身体で優しく包んだ。大好きな温もりと匂いを感じて足が止まる

「…なによ」
「え、えっとー…ふーちゃんってめったに泣かないけどさ、たまーに涙流した時はこうしたら泣き止んだだろ」

そう言って彼はよしよしと優しく私の頭を撫でた
どうして彼はこうも私の欲しい物をくれるのか。こんなに可愛くない私をわかってくれるのだろう

「っ…そんなの、小さい頃の話よ」
「そうだったっけ」

苦笑いしながらも彼は私の頭を撫で続けた。私も特に抵抗することなく彼の腕の中に収まっている。そうしてる間にいつの間にか涙は止まってしまっていた
心地好い暖かさに私の緊張は解れている。相変わらず心臓は五月蝿く鳴っているが、今なら

「…これ」
「ん?」
「今日、バレンタイン…でしょ」

怖ず怖ずと差し出したそれを彼は驚いたように見ていた

「…俺に?」
「他に誰がいるのよ!」

良いから早く受け取んなさい!と半ば強引に包みを彼に押し付けて背中を向けた。自分でもわかる、私、今真っ赤だ。今度こそ逃げ出したい

「ありがとう。すげぇ嬉しい」

彼は嬉しそうに御礼を言った。背中を向けているからわからないがきっと笑顔を向けてくれてるのだろう
喜んでくれて良かった。私も嬉しい。ああ、またそんな簡単なことも言えないの。私は本当に意気地無し。今日も私は素直になれそうにない
でも、心の準備ができてないのにいきなり声をかけてきたあんたにも非はあるのよ!理不尽かもしれないけど、今日はそれで許してよね

「…クラウ。今から私が言うこと、全部反対だから」
「へ?」


クラウなんて




「だいっっきらい!!」




大好き!!



++++++

クラフロバレンタイン記念(^O^)
書いてるこっちが恥ずかしくなるわああぁぁ←
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