「おめでと、おめでと、おめでと、おめでとう!」

真っ赤な顔してそう言った彼女の顔が今でも頭に浮かぶ。
恥ずかしさを紛らわすために目をぎゅっと瞑って、それから赤く染めた頬を気にしながら笑った彼女。
あれは確か俺の誕生日で、エリシアの誕生日。
ヒューズ中佐に連れ去られた彼女が、グレイシアさんのアップルパイと魔法の呪文を手土産に帰って来た、あの日。



「へーえ、こいつももう6才になるのかぁ」

俺達がその位の頃は何してたっけな、アル。
なんて感慨深く思ったりしたけれど声にする前に過去が頭を過ぎった。
俺の記憶が間違っていなければ、アルを苛めて母さんに怒られたり、アルと喧嘩して負けたり、挙句はウィンリィを嫁にすんのはどっちだ、などという事態に至った。
これはアルに言ってもからかわれる事が目に見えているので黙っておくとする。
一人寂しく思い出を反芻するとしよう。
まあそれも後回しにしておいて、今はやるべき事があるのだ。

「僕たちがその位の時って何してたっけ」

俺の瞑想が少しばかり長かったためわかりにくいかもしれないがこれは先ほどの俺の言葉への応答である。
ちょっと待て、今それについて心の整理をしたばかりだというのに。と口に出せるわけも無く。
兄弟して同じ事を考えるというのは気持ちの共有の面では良いが、時と場合に寄るものだなぁとしみじみ感じる。

「まあまあアル、それよりちゃんとクリーム塗れよ」

「はいはい」

強引とも言える話逸らし術を行使するとアルは仕方が無いなぁ、といった感じで苦笑した。
小さい声で「じゃあ、あとで話そうか。ね、兄さん」と聞こえたのは気のせいだと思いたい。

「アルおにいちゃーん、エドおにいちゃーん!まだー?」

玄関の方から小さき友人の声が聞こえる。
友人というよりもはや親のような気持ちで見守っているのだが。

「もうすぐだから待ってなー!」

待ちきれなくてうずうずしてるだろう姿が自然と頭に思い浮かび、少し笑えた。
本来ケーキとは完成した後冷やすべきであるのだろうが、あの子はそんなことお構いなしらしい。

「もういーい?」

「いいよーおいでー!」

アルがそう言うのに続いて、どんどん近づいてくる足音。
あの子にまず何を言ってやるかは決まっている。


「おめでとう、おめでとう、おめでとう、おめでとう」

繰り返す意味を聞かれたら、彼女に聞かされた言葉を教えてあげよう。
おめでとうの数だけ、幸せになれるんだって。

Happy birthday for you.
(幸せを願う魔法の呪文)
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