それは、散歩の途中で偶然見つけたもの。 「アルおにいちゃん、なんてかいてあるの?」 ダンボールに張られた紙を指差す少女にそう問われて、書かれた文字を口にする。 「えっと…誰か拾って下さい、だって」 「すていぬ?」 「そうだね、かわいそうに…」 毛布に包まって顔だけチョコンとだした黒い子犬と目が合って、抱き締めたい衝動に駆られる。 「…アルおにいちゃん、」 「何?」 「つれて、かえっちゃだめ?」 泣きそうな目で訴えられて、幼い頃の自分を思い出した。 気持ちがわかるからこそ承諾してはいけない…けれど。 「君はまだ小さいから育てられないし、お母さんが何て言うかもわからないでしょ?」 「うん…」 服の裾を握り締める少女の目に涙が溜まっていくのを見て、そっと頭を撫でた。 「僕の家に連れて行こっか、そしたらいつでも遊べるしね」 あの頃と違って自分はもう子供じゃない。 ちゃんと、責任を持って育てていける。 言葉の代わりににこ、と笑うと少女は嬉しそうな表情で頷いた。 「だっ、だっこしてもいい?」 犬を指差して嬉々とする少女に思わず顔が綻んだ。 いいよ、と言うが早いか毛布をそっと剥ぎ、子犬を抱き上げる少女。 「あっ…」 全身を現した子犬に目が釘付けになった。 「どしたの?アルおにいちゃん」 その黒い子犬は目下から腹、手足の先が白い毛だったのだ。 そう、その姿はまるで… 「デ、ン…?」 小さい声でポツリ、と呼ぶとその子犬はワン!と吠えた。 「このわんちゃん、デンっていうなまえなんだね。アルおにいちゃんなんでしってるの?」 「知ってるわけじゃないんだけど、昔…すごく似た犬がいたの」 「そっかぁ…じゃあきっとうまれかわったんだよ、アルおにいちゃんにあうために」 少女はそう言うと、ほらアルおにいちゃんもだっこして、と子犬を預けた。 生まれ変わりなんて言葉を出すのはきっとまだ幼くて素直だからだろう。 大人になるとそんな奇跡みたいなことを信じられなくなるものだ。 だけど、もしかしたらそうなんじゃないだろうか…なんて思ってしまうのは僕もまだ子供だからだろうか。 「アルおにいちゃんはやくかえろう、エドおにいちゃんにもみせてあげるの」 「そうだね、兄さん絶対喜ぶよ」 本来こういう拾いものは怒る彼だけれど今回だけはきっと、驚いて、嬉しそうに笑うんだ。 空いているほうの手で少女の手を握ってから、デン、ともう一度だけ呼ぶと子犬は嬉しそうに尻尾を振った。 (扉の向こうから、友のもとへと) |