「ひーちゃん、おきゃくさん?」

ひょこん、と襖から顔を覗かせたのはまだ年端も行かない女の子だった。

「…まあ、そんな感じ。どうした、もう昼寝は良いのか?」

「むう…だって起きたらひーちゃんいないんだもん」

頬を膨らます女の子に梵天は腕を広げる。

「悪かったな、ほらおいで」

走り寄る少女を抱きとめて頭を撫でてやると心地良さそうにしていた。
そしてそれを呆然と見ていた“おきゃくさん”、即ち鴇時は口を開けっ放しのまま梵天を凝視する。

「何だ、そんな顎外れそうな顔して」

「え…?うん、梵天だよね?」

「俺じゃなきゃ誰だよ」

阿呆かとでも言いたそうな梵天に鴇時は思案顔になった。

「隠し子…?いやでもまさか……ロリコン?いやそんな趣味があるわけ…なさそうでもないけど…」

「誰がロリコンだ。考え事は頭の中でしろよ」

「え、じゃあやっぱ隠し子?」

「んなわけあるか。拾ったんだよこの間」

「ひろっ…?!犬猫じゃあるまいしそんな…」

そこまで言って鴇時は再び思案する。
この時代だと珍しくも無いのだろうかと。
こんな小さい子を、可愛いはずの我が子を。
茶から立ち上る湯気を見つめていると額に痛みが走った。

「っ、何す…!」

ジンジンと痛む箇所を押さえて梵天を睨むと、彼は苦笑していた。

「お前はそんな顔しなくても良いんだよ」

「あ…」

他の人にも指摘されたことだなと思い出して自然と自分も苦笑する。
そんな会話をじっと見ていた少女がとことこと鴇時に近寄ってきた。

「どうしたの?」

「おててだして、」

言われるままにしてやると、少女の小さい手から可愛らしい包みが落ちる。

「あめあげるからげんきだして」

「っ…ありがとう…」

それを聞くと可愛らしく笑って梵天の傍へと戻った。

「えらいな」

「ひーちゃんのもあるよ、はい」

「…ありがとう、大事に食べるよ」

きっと自分では気付いていないだろう。梵天は優しい顔で少女を見ていた。

「ねえ…そういえば最近になって家を借りた理由ってさ」

そこまで言って続きを言うのはやめた。
梵天が睨んでいる気がしたというのもあるけれど、言わなくてもいい気がしたからだ。


(親心)


「…やっぱりロリコンかもね、梵天」
「そんなわけあるかボケ」
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