「死ね土方!」

確かこんな事を去年も思った気がする。
心から思った気がする。
今年はそれを上回ったので声に出して叫んだ。

「何だとコルァ!」

地獄耳な土方この野郎は耳聡く聞きつけ瞳孔を開いて刀を振り回しながら走って来た。
そんな暇あるなら敵追え馬鹿野郎。

去年はまだマシだった。
攘夷浪士のクリスマスイヴが余程暇なのかここぞとばかりにはしゃぎ回ってくれたせいで仕事が山積みだったけれど、何とか全力疾走で日が変わる前に家に帰れた。
でも今年は違う。
さらに寂しい攘夷浪士が増えたのかヒートアップしている。
こんな日くらい家族や友人と仲良くしてやがれってんだ。

只今某ホテルの五階のとある一室で、お馴染みの「御用改めである!神妙にお縄に付け!」を土方が言い放ち、逃げ回る奴らを取っ捕まえている最中である。
しかしこれももう何件目か。同じ台詞は聞き飽きた。
客引きしている桂を見掛けて追って逃げられて、宴会を開いてる酔っ払いの部屋に乗り込んで捕まえ、移動する最中にまた桂を見つけ逃げられ、打倒幕府の策略立ててる奴らの部屋に乗り込んで捕まえ、途中出くわした攘夷浪士に切りかかられ制圧し、その後ホテルを何件も回っている。
ほとほと疲れた。

「ああもう疲れやしたぜマヨ野郎とっとと終わらせろ」

「誰にタメ口聞いてんだ!お前が終わらせろ!」

「…へえ、良いんですかィ、俺が、終わらせて」

「…え?おまっ、まさか…ちょっ待、」

男に二言は無しだ。恨むならどうぞ自分を、副長。
苦情が殺到するから自重して使用していなかった、肩に掛けてあるバズーカを下ろして標準を合わせる。

「グッバイ土方、素敵なクリスマスイヴを」

「いや今お前の手によって終わらせようとされ…ぎゃああああ!!!」

ドン、と大きな音がして当たりに煙が広がっていく。
よし、終わった。終わった。


「副長、頼まれてた組織の監視終わりました!三十分後に集まると情報が…あれ、沖田隊長、副長は?」

息を切らして走って来た山崎が煙に咽ながら辺りをきょろきょろと見回した。

「ああ、土方ならあっちでさァ」

ぐい、と親指で後ろを指差す。

「ああ…あっち、ですか…そうですか……生きてますかねぇ」

「まあマヨネーズ掛ければ復活すんだろ。そういうことであとは宜しく頼んだぜィ」

「あとはってそんな無茶な…!」

「大丈夫、お前の名前は無敵の呪文だから」

「俺の名前ザキなんですけど!この場にもう必要ねぇよ!隊長のバズーカで敵味方区別無しにHPギリギリですもんザキじゃなくてべホマラーとか使いたいんですけど」

「大丈夫、お前なら何でもできるさ。何ならベホ・マラオとかに改名したらどうですかィ」

「何人だよ!嫌ですよそんなん!」

絶望を見たような瞳でヒステリック状態な山崎の方にポン、と手を置く。
恨むなら土方を。あと、続きの仕事と始末は宜しく。
山崎も山崎で項垂れながらも小さく頷いてから土方のもとへ駆け寄った。
パシリ扱いと不憫さに慣れているんだろう、今度ジュースくらいは奢ってやってもいいかもしれない。
ちなみに土方はマヨネーズ掛ければほんとに復活すると思う。

部屋を抜けてエレベーターで下へ向かいながら、内ポケットに入れていた携帯を開いた。
メールが三件、着信が二件入っている。
メールも電話も普段あまり自分からはしない彼女にすればかなりのことだ。
今の時間を確認すればそれも納得できた。日付が変わるまであと三十分を切っているだなんて。

“何時ごろ帰ってきますか?”
“お仕事まだ大変そうですか?”
“忙しいのに何度もごめんなさい、あの、帰って来たらぎゅってしてください”

急いで着信履歴から掛けなおした。
コールを四まで数えたところで途切れる。

「も、もしもし?」

「遅くなってほんとにごめんなせェ、急いで帰るから」

「うん、待ってる、から、安全に帰って来てね、怪我したらやだよ」

「心配しなくても大丈夫でさァ」

「ん、わかった」

彼女の声が、機械を通しているとしてもどこかおかしく感じた。風邪を引いたような。

「…なあ、まさか、泣いてた、りしやした?」

「いっ、いや、泣いてない、泣いてない、です!」

異様な慌てようが泣いていた肯定をする。
そういえば、昨日食料を買い込んでいたし、きっと今日は料理を張り切ったに違いない。
でも、一生懸命作った料理もきっと冷めてしまっただろう。
それを彼女は、いつ帰ってくるとしれない俺を待ちながらずっと目にしていて。
最後のメールの“帰って来たらぎゅってしてください”が、彼女にどれだけ寂しい思いをさせたか物語っている。

ああ、マジで死ね土方。

「ほんとにごめん、すぐに、すぐに帰るからあともう少しだけ待ってて」

「うん!あ、でもほんとに安全に、ね」

「わかったって、心配しすぎですよ」

なんて言ったって安全運転なんてできるわけもするつもりも毛頭無い。
全力で帰って、そして、君を抱き締めるから。



baci e abbracci



「おかえりなさい!」

扉を開けて見えた彼女の目はやっぱり赤くて、でも嬉しそうに笑ってぎゅうっと抱きついてきた。

「ただいま、」

その背に手を回してぎゅ、と抱き締める。
もう少しで日付は変わってしまうけど、君が作ってくれた料理を食べよう、紅茶を飲みながら眠くなるまで一緒にベッドでくだらない話をしよう、プレゼントは眠った頃にそっと置いておくから、朝起きて笑ってくれるといいなと思う。
今日こんな思いをさせてしまったから明日は無理やりにでも有給を取って、ケーキを買ってきて、二人でゆっくり過ごそう。

「メリークリスマス、総悟」

「メリークリスマス」



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title by xx
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