寒い、寒い、寒い。

口からはただそれだけが零れる。
傘なんてお構い無しに体に吹き付ける雨。
腕も足も腹も背も濡れ、辛うじて濡れていないのは頭くらいのものである。
ふと足下から顔を上げると、前方に自分が通う学校の制服を着た男の子が道路に設置された自動販売機で飲み物を買っているのが見えた。
傘で顔が隠れていて見えないけれど、同じクラスの人だったのでそれが誰であるかわかった。
もし振り返ったりして目が合いでもしたら気まずいので目を逸らして足早に通り過ぎた。
…のに、

「あれ、名前?」

そう声を掛けられ、心臓が早鐘を打つのがわかった。

「あ、土方君?」

敢えて今彼に気付いたかのような口振りで振り返り、顔が赤くなっていませんようにと心で呟いた。

「今帰りか?雨ひどいよな」

「だよね、もう寒くて寒くて」

空を見上げて苦笑しながら言うと、彼も同じく笑った。

「ほんとにな。雨って嫌いじゃないけど、登下校ん時は困るわ」

土方君はそう口にしながら、自動販売機に硬貨を入れた。

「二つも飲むの?」

既に手に持っている缶を見ると、やるよ、と言ってたった今買ったものを渡された。
予想していなかった行動に、いいの?と訊ねると、これ嫌いだった?と逆に聞かれた。

「んーん、すごい好きだよありがとう」

コーンポタージュと印刷された文字を見ながら缶を手で包むと、その熱で手が温まった。

「土方君って自転車で学校来てなかったっけ?」

と、小さな疑問をぶつけると

「総悟に乗って行かれた」

という可哀想な答えが帰ってきた。
ご愁傷様です。
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