ところどころ濃淡が異なる青色に、光を反射して眩い白がよく映えていた。
夕刻ということもあり少し朱色を帯びている。
階段を下りる時に窓から見えたその空に、思わず目を奪われた。
立ち止まってずっと見ていたい誘惑に駆られたが、玄関で自分を待っている人がいるので行かなくてはならない。
足早に玄関へ向かい靴を履き替える。
丁度下校する生徒が多く、彼が何処で待っているのかとあたりを見回すと、声が聞こえた。

「名前、」

声のする方に振り返ると、色素の薄い彼の髪の毛が見えた。

「ごめん、遅くなった」

「ん、日直だったんだから仕方ねーって」

ほら帰ろう、と歩を進める彼の隣で歩く。
ふいに空を見上げると、建物で隠れはするものの先程見たところが少し見える。

「空、綺麗だよねィ」

前を向いたままの彼がそう言った。

「うん、私もさっきそう思ったんだ。今日の空綺麗だよね」

何だか嬉しくて思わず笑顔が零れる。

「そうですね…こんなに綺麗なのに、どうして皆は気付かないんでしょうかね、」


その彼の言葉に、私は驚いて返事が遅れた。
言われてみればその通りの事。
空、なんて当たり前すぎて誰も気になんてかけない。
だから、さっき空が綺麗だと言われて嬉しかったんだ。
自分だけじゃなかったのだと。
彼も、同じ空を見ていたのだと。
こんなに綺麗なのに、どうして皆は気付かないのだろうか、と。
その言葉に、何だか感動したんだ。
そんな当たり前の事に、人は気付けないから。
そんな事を思うと同時に、だから私は彼を好きなんだなと改めて感じた。

「ふふ…総悟すごいね、尊敬するわもう惚れた」

「マジでか、」

嬉しさからくる笑いを隠さずに言うと、彼も釣られて笑いながら言った。
顔立ちの整った彼の無邪気な顔を見てから、もう一度空を見上げると、校内から見たときよりも朱色が増していた。
私の隣に立つ彼と、いつか手を繋ぎながら変わりゆく空を見上げていたいと思った。

(きっとそれは、遠くない未来)
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