「どうしたんスか、晋助様」 上着を羽織って外に出る途中、部下に見つかって不思議な顔をされた。 作戦決行はまだ数日先であるし、買い出しは下っ端がやることだし、遊廓へ赴くにはまだ早い。 「散歩だ」 まだ明るいから笠は必要ないだろう。 そんなに遠出するつもりはないし、何よりここは京だ。 日の下に出ると、闇に慣れた目が少し眩んだ。 天人が蔓延っている主要都市と違い、此処はのどかだ。 「あ…!」 小さな声が聞こえたかと思うと視界に色鮮やかな色が飛び込んできた。 転んだらしい少女が地に向かっている。 「っと…大丈夫か?」 咄嗟に手を出していた自分に少し驚く。 放っておけばいいものを。 「す、すみません」 申し訳なさそうに上を見上げた少女の頬に朱が浮かんだ。 高杉が持つ得体の知れない雰囲気と飲み込まれそうな切れ長な漆黒の瞳は、免疫の弱い少女にとって毒のようなものだろう。 転びかけたときに反射的に出ただろう水分が溜まった瞳が地面に視線を移すと、余計に潤んでいく。 (ああ、そういやあ…) 地面には色鮮やかな花束がいくつか落ちていた。 叩きつけられたせいだろう、ところどころ潰れて土が付いているそれはもう売り物になるまい。 というのも、着物に名札が付いていて氏名の上に花屋らしき名前が書いてある。恐らくは配達の途中だったのだろう。 大丈夫か?などと聞くまでもなく悲壮な顔で花束を拾っていた。 「…それ寄越せ」 どうするんだと言いたげな顔でおずおずと差し出されたそれを手に取る。 そして財布から抜き出した札を数枚握らせる。 これだけあれば足りるだろう 「途中で買われたと店主に言えばいい。」 「でも…こんなに頂けないです。そんなに高くないし…」 「それしかないから良い」 「せめてお釣りを、」 「今ないだろ?」 必死に食い下がる少女にそう言えば、そうだったとまた涙を目に溜めた。 「…迷惑掛けてばっかで申し訳ないです」 「……じゃあ、」 明日此処にまた来ればいいだろ? 自分でも何を言っているかわからなった。 自然と口から出た言葉に、少女は嬉しそうで。 「良いんですか?」 「ああ。生憎店の場所わかんねえから歩かせて悪いな」 「そんなことないです、寧ろこっちこそすみません」 ありがとうございます、と頭を下げる少女を見ながら妙な気持ちになった。 ただ、これから少女についていって花屋に行けば済む話なのに、自分は何をわざわざ。 面倒事は嫌いだったはずなのに。 何故、なんて認めたくはないけれどそれ以上に自分自身は正直であり得ない行動をしている。 (…俺もまだまだ馬鹿だったらしい) 叶わない恋なんてロマンチックな言葉は似合わない。これは馬鹿がする馬鹿な恋。 「あ、おかえりなさいっス」 「晋助、どうしたのでござるかその花束」 「……あー…」 何と弁解するべきか。 厄介な奴らに見つかったものだ。 title:確かに恋だった |