「…遅い」 何度も心の中で呟いた言葉がとうとう口に出た。 じぃっ、と時計と睨めっこしても何か変わるわけではない。 今日は見回りだけだと言っていたのに、もうすぐ六時。 いつもなら、四時には帰ってかているというのに、寄り道でもしているのだろうか? (ドーナツ食べたいって言ってたからおやつに作ったのに、な) お皿に乗ってラップをかけられたそれはとうに冷えている。 むー、と唸って畳に寝転がった。 愛しい君に口付けを 今日は本当に散々な日だった。。 捜してる時や捕まえたい時は尻尾すら見せないくせに、こんな日に限って現れた桂。 全部土方に押しつけてずらかろうとするが、ちょうど近藤さんが駆け付けたのでタイミングを逃してしまった。 (ったく…残業手当て出なかったらマヨ野郎呪ってやりまさァ) 桂が逃げたのを見送ってから急いで屯所に帰宅したが、着いたのは七時を過ぎた頃だった。 「…あれ?電気付いてねェや」 どこかに出掛けたのだろうか、と暗いままの部屋を不思議に思いながら戸を開ければ、畳の上で丸まって眠っている彼女。 「ほら、んなとこで寝てっと風邪引きやすぜ」 言いながら頬に触るとひんやりとしている。 名前を呼んでも、うーとかんーと呻くだけで起きる気配がない。 …そういえば昨夜相手をしてもらったにも関わらず今朝いつも通りに起きて朝食を用意してくれていたから眠いのだろうか。 そう考えたら少し申し訳なくなり起こすのをやめ、毛布を掛けた。 ふと机を見上げれば、朝はなかったはずのドーナツ。 その脇には小さいメモがあって、 “白い方がプレーンで、色が濃いのはココア” と可愛らしい字で書いてある。 朝ニュースで特集されていたのを見て食べたい、と言った覚えはあるがまさか作ってくれたなんて。 高値なものや人気のあるような、テレビに出たものなんかよりずっと嬉しい。 胸が締め付けられるような感覚がして、温かくなった。 ああ、大好きだなぁと改めて感じることが日々あるなんて自分は本当に幸せ者だ。 ふと思い出してポケットに手を伸ばした。 そこから小さな箱を取り出す。 仕事を終えて行った店に取りに行ったものだ。 パコ、と音を立てて蓋を開いた。 シルバーで出来たシンプルな作りリングだが、内側にはダイヤがはめ込まれていて彼女の名前を刻んである。 それを手に取って、白い指にそっとはめた。 「少し早いけど、誕生日おめでとう」 明日、起きて気付いたら喜んでくれるだろうか? 改めて祝いの言葉を言って、それから仕事なんて休んで一緒にいよう。 すやすやと眠る彼女の額にそっと唇を落とした。 (結婚しよう、って言うのは明日のお楽しみにとっておこうかねィ) |