いつもいつも、私が居る時間に丁度良く公園へやって来る彼。 どこかに隠しカメラでも設置されているのか?なんて、思ってしまうのも無理がない。 …まあ、いくら頭がアレだろうとそこまでする人じゃないだろう。 隠しカメラは笑えない冗談としておいても、来る時間がずれる時だってそれさえわかっていたかのように現れる彼は本当に普通の人間なのか疑うところである。 けれど珍しいことに、というか初めての事だが、今日は先客がいた。 「チャオ」 何語かわからないがどこかの国の挨拶だったような気がする。 スーツを身に纏った、赤ん坊くらいの大きさの子供。 「お前が名前か?」 「え、うん…あなたは誰?」 赤ん坊、にしてはちゃんと歩いているし喋り方は流暢で言葉の使い方もちゃんとしている。 厳しい家で育てられたのかもしれない、と考えたけれどそれにしても異様だ。 「俺はリボーンだ。そうだな…骸の知り合い、とでも言っておくか」 「あ、なるほど…」 彼の知り合い、だなんて言われたら妙に納得してしまう。 類は友を呼ぶとはこのことだろうか。 「俺を変人扱いすんな」 「だって骸の知り合いとか言われるとつい…」 「まあ確かにあいつも変わってるけどな、そこまでじゃないんだ。お前と居る時だけだから多めに見てやってくれ」 ニッ、と笑って言われたけれど、その意味が良くわからなかった。 私と居る時だけ、って言われてもそれ以外の彼なんてわからないし変態はどこまでいっても変態じゃないのかなあというのが正直なところで。 「あ、そういえば…骸がこの前言ってたんだけど、てぃ・ぼーりお…何とか」 骸の知り合いならばわかるだろうか、と思い出した疑問を尋ねてみるとリボーンは呆気に取られた表情をした。 「アイツがそんな事を言ったのか?」 「うん。何語かもわかんないけど」 「Ti voglio bene…だろ?」 「確かそんな感じ」 骸と同じく日本語とは違うそれを発音良くさらりと言った彼に、意味を訊くとニヒルな笑みを見せた。 「それはな、」 「おや。こんなところでお会いするなんて珍しいですね、アルコバレーノ」 本当にこの人はタイミングが良すぎる。もちろん良い意味ではない。 何でよりによってこんな時に来るんだ。 「お前が惚れた女、なんて言われたら気になってな。ちょっと散歩ついでだ」 アルコ何とかいうのは何なのだろう。 初めて聞く単語で聞き取れなかった。 赤ん坊と会話を普通にしている光景なんてものも現実離れしている。 ちなみに、「惚れた女」なんていう言葉は聞こえない。 気のせいだ、そうに違いない。 自分に言い聞かせてそのままこっそりと帰宅しようと思ったのだが、目敏く見つかり左右違う色の瞳が細められる。 何故だ、骸よりも後ろに居たというのに。 「クフフ、貴女のことならわかりますよ。何でも、ね」 「いやいやいやわかんなくていいから、やること終わったし私もう帰るから、」 捲くし立てて後ずさろうとするとガシ、と手首を掴まれる。 「そんな遠慮しなくていいですよ、今日も僕に会うのを心待ちにしていたのでしょう?」 「すいませんしてません」 だから帰らせて、と手を離そうとすると余計に力が強くなる。 「照れなくてもいいですよ?」 「照れてないけど」 「本当に貴女はシャイですね。全くもう」 仕方無い、という風に微笑むパイナップルを見ていると少しイラっと来るのは気のせいではないだろう。 いや、パイナップルでは何かが足りない。 そうだパイナッポーだ。そっちの方がしっくりくる。 端的に言うと、アホっぽい。 「今日は少し用事がありましてね、遅れてしまったのですよ」 聞いてもいないことを急に喋り出したかと思うと、ポケットから何かを取り出した。 「なので、お詫びと言っては何ですがプレゼントがあるんです」 別に待ってないのでお詫びもいりません。 そう言おうとした矢先に手を掴まれる。 「な、何?」 「愛の証です」 箱の形にまさか、とは思ったけれどそのまさかでありいつの間にか左手に指輪が嵌められていた。 ご丁寧に薬指である。 愛の証ってどういうことだ付き合ってもいないんだけれども…と呆れたらいいのか何なのかわからないまま首を傾げると骸が笑った。 「クフフ、冗談ですよ。友人になった記念、ということにしておきましょう」 「気のせいかな、友人になった覚えがないんだけど。しかもなっても普通記念とかないよ今時」 「それは気のせいでしょう、なっていないなんて言ったら泣きます。誓ったじゃありませんか」 「誓ってません」 「泣きます」 至極真顔でそんな脅しをされても困る。 お前一体何歳児だ。 「あのさ、子供じゃないんだから」 「泣きます」 「…誓った、ような、してないような」 延々と続きそうなやり取りに溜息を吐いて仕方なく譲歩すると、真顔から一変して柔らかい笑みを見せた。 「やっぱり僕と友達になりたかったんじゃないですか」 「違うよ馬鹿。もう取り消してやる」 「冗談ですって」 すいません、と睫毛を伏せて謝られては堪らない。 変態の癖にその顔は卑怯だ! 「それは置いといても、指輪はもらえないよ」 こういった物に詳しくはないが、安くはないことが見て取れる。 「僕が勝手にあげたのですから気にしないで下さい」 指に嵌められたそれを外して返そうとすると、押し返された。 「でも、さすがにこれは…」 「もらってくれないなら泣きます」 「いいよもうそれは」 「では、食べます」 「え、指輪を?」 「いいえ?」 にこやかな笑顔で唇に指を当てられた。 じゃあ何を食べるの? なんて、聞けない。聞けるわけがない。 「指輪、もらっていただけますか?」 「…」 疑問系であるはずなのに答えは一つしかないなんて間違ってると思う。 無言で指輪を元の位置に戻すと、彼は柔らかい笑顔で笑った。 あれ、さっきと同じことしてる気が。 食べちゃうぞが冗談に聞こえません 「はぁ…」 「どうしたの?リボーン」 学校で出た宿題をしていると小さい溜息が聞こえた。 滅多に聞いたことの無いそれにツナが内心驚きながら手を止めると、「んー」と唸りながら顔を上げた。 「何ていうか、骸の頭がネジ外れたらしくてな」 「何のこと?」 霧の守護者である彼は頼もしくあるが、反面で恐ろしい奇抜な計画を考えていそうなので皆目見当もつかない。 この家庭教師を悩ませるほどなのだから、余程だろう。 「アイツがもうメロメロで」 「は?動物とか?」 メロメロ、という言葉がどうにも似合わない。 クフクフ、がしっくりくる。 「いや、人間だぞ」 「へー、人間…ってハァアア?!!」 「今日様子を見に行ってきたんだがな、思ったよりも壮絶だったぞ。多分、ツナが見たら気絶するだろうな」 「気絶するくらいってどんなだよ!ていうか人間?!!」 「ああ、一般人だ」 想像できない。 六道骸が普通の女の子と普通の場所に普通にいるところが。 一般、という言葉がかけ離れている。 「へええー、あいつが……」 半ば放心状態で驚愕するツナを見やって、リボーンはもう一度溜息を吐いた。 見ているだけで彼女にどんな想いを持っているかわかるくらいの接し方だった。 所々問題がある会話ではあったが。 彼の言っていたことを反芻すると迷惑そうな彼女が頭に浮かんだ。 恋を悪いとは言わないが、何事にも限度というものはあるのだ。 (まあ…あいつの場合、仕方無くはあるんだよな) 刻一刻と、時間が過ぎていく。 |