「恋って何だろうね、骸」

「へ?」


一体何を急に言い出すのかと名前の顔を窺えばいつもと変わった様子は無い。
紅茶を飲むときはいつも大抵どうでもいいことを話していたりする。
眠いだとか疲れを取る方法だとかそんな普通の内容のこともあれば、世界はどうやって出来ただの眠れない時に考えるような取り留めのない話題の時もある。
けれど色恋沙汰の話は全くと言って良いほどしたことがないので骸は少し驚きながらカップを口元へ運んだ。


「私ね、別に運命とかそんなドラマみたいなの信じちゃいないのだけどさ、人を好きになるには何か理由があると思ってたんだ」

「そうですか」

「でもね、私ここで働いててふと考えてみたんだ。イケメンに取り囲まれて」

「そんな捉え方をしてたのですか…職場を何だと」

「美味しい職場かと。それで、別に自分の容姿の悪さはわかってるから職場恋愛なんて期待した訳じゃないんだよ、いや夢は見たけど」

「…それ期待してるって言いません?」

「いや違うよ、妄想しただけだから。誰だってするでしょ、だって芸能人とか目じゃないもんボンゴレすごいよ」

「いやほんと君、ボンゴレを何だと思ってるんですか?まあ顔の良さに否定はしませんが」

「しないのかよ、まあほんと綺麗だから良いけどね。話は戻って、何考えたかというと、誰かと恋できるならにしようって。だけどぶっちゃけ誰でも良いじゃんって思って。問題は誰が一番優しいかだと思うのね、みんな同じく言い顔だからそこしか比べようないじゃない」

「性格は考慮しないんですか?」

「それはこんなイケメンパラダイスな状況じゃなく周りに一人だけなら、性格が素っ気なかろうがそんなとこまで好きになるんだろうけどね、こうも揃うと、誰か優しくしてくれた人にきゅんとくるのかなあって」

「そうですか。僕は男なのできゅん、という気持ちはわかりませんが。で?」

「うん、だからね、結局のところ恋なんてもの幻で、ただ顔と金と性格の条件で妥協できるくらいの相手と子作りして一生を終えるのかと思ったら虚しくなったわけでして」

「まあ恋なんてものは脆い人間が何かに縋るために作り出した妄想のようなものですからね」

「そうなんだよね、かく言う私も誰かに愛されたいけどまず愛せないんだ、ほんと人間ってよくわからないよ」

「ですが、愛は確かに存在しますよ、なんて僕に言えたことではないですが。形は違えど、君含め皆が沢田綱吉に向ける感情はそうじゃないですか」

「じゃあ男女間の愛は?肉体関係の有無?情?」

「そんなことをいえば、愛自体が情でしょう。人間は、親しくなった者に情を抱くものですから。けれどそれがこの広い世界の中で出逢えた相手であるからこそ、人間はそれを愛と呼ぶのではないかと思います」

「…骸って、愛とか否定的かと思ってたよ。それに、説得力あるし」

「僕も人間の愚かさについてよく考えましたからね。馬鹿らしいと思っていましたが、いつのまにか失したくないものができていました」

「そっか…じゃあ、犬ちゃんと千種君に向けるものとクロームちゃんに向けるものは違うの?」

「やはり男女の差があるので表現は違いますね。僕の可愛い千種…なんて言ってたら引くでしょう」

「うん、笑う以前にソッチの人かとどん引きだよ」

「だから、表現は違います。が、愛は同じ種類です」

「女の子に向けてでも違うの?」

「違いますね。クロームは可愛いし愛していますが、そういったものとは異なります。いかがわしいことをしたいとは微塵も思いませんし、いわば家族愛みたいなものでしょう。家族に愛を感じたことはありませんけどね」

「なら性欲がそそられるかどうかなの?」

「微妙な線ですが違いますね。愛しいから、触れたくなるんです。その延長線上に行為があるだけです」

「よくわかんない。」

「僕もよくわかりませんよ。そんなもの存在しないと思ってましたから。子を成すための性欲と、脆さと情しかないとね」

「今は違うってこと?」

「ええ、自分でもよくわかっていませんでしたがやはり君と話していて思わざるを得ませんでしたよ」

「骸がさっき言ってた、愛は存在するってことを?」

「そうです。その人を見ていると、微笑ましかったり、心が温かくなったりなんてして、ときには愛しく感じたりもするんですよ。欲しいものは手に入れればいいと思ってましたが、こればかりは強引に出来ません。泣き顔も嫌いではないのですが、嫌われたくはない」

「…え、何その殺し文句。あれだけやった人がそんなこと言うなんてほんとどうしたのかと思うよ」

「随分な言いようですね。まあ、過去にしたことは取り返しようがありません。後悔もしていませんけどね」

「それはみんなも分かってるよ。今の骸がどんな人かもね。だから大丈夫だって、骸にそれだけ想われたら幸せでしょ」

「そうでしょうか?」

「間違いないわ。早く言ってきたら?誰か知らないけど、今度会わせてね。余程可愛い人なんでしょう?」

「それはもう」


骸はいつもマフィアの人間に向ける侮蔑を含めた笑みではなく、優しげな顔をして笑った。
惚気かよ、いいなぁ、なんて思いながらさっさと行けと促すと骸は二つ返事で席を立ち、そして私の前に膝を着いた。

「えっ、どうしたの、具合悪い!?」

髪の毛に覆われて表情が見えないので心配になり前髪を避けようと手を伸ばせば、辿り着く前に掴まえられる。

「骸?だいじょう」


ぶ、と言う前に名前を呼ばれて遮られる。

「名前さん」

「うん?」

余程具合が悪いのだろうか、彼が体調を崩すところを見たことなんてないので心配になって骸の言葉を待つ…と。

「えっ?むく…」


今度は言葉を遮られたわけじゃなかった。
驚きで、声が出なかったのだ。
急に接近した、彼の顔に、瞳に、反応が出来ない。
リップノイズを立てて柔らかい唇が離れて唖然とする。
睫毛すごく長いよなあ、と場違いなことを頭の片隅で考えたりして現実が掴めない。

「む、くろ…?」

名前を零せば、先程と同じままの優しい顔で今度は手のひらに唇を落とされた。




「名前さん、あなたの事を愛しています」





ショート寸前の思考回路





(え、ちょっとま、え?!)
(良かったですね、早速僕の好きな可愛い方に会えたじゃないですか)







してやったりな骸さん(笑)
夜中のハイテンションで書いたので色々と許してやって下さい
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