自分が優柔不断であることは他に言われずともよく知っていた。何かしら決定する際に背中を押してもらわないと決断しにくくて、その中でも顕著なのが服だった。服の買い物。給料そんなに多くなかったし、センスも良いわけじゃないし、買っても似合わなかったらどうしようだとかお金がもったいないだとかで中々買うことができなかった。だから一回の買い物に購入する枚数はいつも大体一、二着。それも、ものすごく時間を掛けて。…だけど、今日はこれから生活する分を買わなきゃいけないし、服以外にも必要なものがあるからそんなに時間を掛けられないし。携帯のナビ機能でどうにか着いたショッピングモールの洋服店で、色んな服を見ては戻して悩んでいた。

「どうしよっかなー…」

どうせなら、服も適当にオプションとして準備しておいてくれればよかったのに…なんていうのは贅沢だよね。準備資金をたくさん用意してもらったから、気になったのを何となくパパッと購入したって良いんだろうけど、貧乏性って中々抜けるものじゃないし、気になる服と似合う服が同じわけでもない。ああもう、服は最後にして他のを先に見ちゃおうかな。

「ね、君さ、一人なの?」

名残惜しみつつ洋服店から出ようとしたわたしを引き留めたのは、女の人の声だった。ナンパのような台詞に振り返るとそこには。…何、この美人さん。この人にならナンパされても着いてくわって思っちゃうようなお姉さんがいらっしゃいました。え、ほんとにわたしに声掛けたの?

「え、っと、一人です」

「そっか。あのね、さっきから服悩んでるみたいだったから…良かったら選んでもいいかなって思って」

…え?どんな展開?





「私さ、妹欲しかったのよ」

洋食屋さんにて。メインが運ばれてくるのを待ちながらお姉さんが言った。片手にはブラックコーヒー。甘いもの好きなわたしは砂糖二本にミルク一つでやっと美味しく感じるようになる代物だから余計に格好良く見える。

「一緒に買い物行ったり、プレゼントしたり、服選んだりとかしたかったわけ」

「ってことは、妹さんいないんですね」

「そう。下に二人いるんだけど、どっちも男でね。だからもーやりたいことどれもできなくって!まあ連れ回したりはするんだけどさ、ちょっと違うじゃない?」

このお姉さんの弟ということは美形で間違いないからきっと彼氏に見えるんだろうなあ、と思いながら相槌を打つ。

「で、今日なまえちゃんを見つけたらついウズッとしちゃって!もう悩んでるのが目に見えてわかって、可愛くって可愛くって!いきなり声掛けても不審だから我慢しようと思ったんだけどお店出ちゃいそうだったから思わず、ね。今更だけど、迷惑じゃなかった?」

迷惑だなんてとんでもない。そんな理由だったならもっと可愛い子に声掛けた方が良かったんじゃないかって感じが否めないけど、わたしはものすごく助かった。申し出の意味がわかんなくてぽかーんとしたわたしに、お姉さんは服の予算を聞いてきて。暫く過ごせるくらいは買いたいからそんなに上限がない旨を伝えると、いくつも洋服店を一緒に回って選んでくれた。お姉さんのセンスがいいからわたしが着てもおしゃれに見えたし、これはこれとこう合わせるといいよねーなんて教えてくれたりしたから着方や色の組み合わせ方もバッチリわかった。実際に中学生だった時はもっとダサい服を着てた覚えがあるから、すごく嬉しい。中学生だった時に限らず、社会人になってからも無難な服ばっかり選んでたし。

「全然!すごく助かりました、服選ぶのって苦手で…お姉さんが選んでくれたのどれも可愛くて嬉しいです!あ、でも、お姉さんこそ迷惑じゃなかったですか?何か買うものがあったんじゃ…」

「私から声掛けたのに迷惑なわけないでしょ、もうかわいいな。今日は何となく買い物に来ただけだから大丈夫だよ。っていうかなまえちゃんに会えて大収穫!」

美人さんだけど、笑うと可愛い。わたしこそ大収穫ですよお姉さん。ほんとにナンパの相手わたしでよかったのか。

「そういえば、暫く過ごせるくらい買いたいって言ってたけど…もしかして引越し?折角会えたのにな…」

「あ、いやいや引越しですけど、するんじゃなくてしてきたんですよ。ほとんど身一つで来ちゃったんで、色々と必要で」

「そうなの?よかったー!じゃあさ、もしよかったらなんだけど、また一緒に買い物とか行かない?会ったりしたいなって思うんだけど」

「わたしでよかったら、もちろん。またお姉さんと会いたいです」

「ありがと。…あっ、そうだ、私ばっかり名前聞いて、教えてなかったね。そうだなー…みやちゃん、って呼んでくれると嬉しいな」

「みやちゃん、でいいんですか?」

「うん、さんだとちょっと遠いし。もっと砕けてほしいなってことで!」

「わかりました。じゃあ、みやちゃん」

「ん、おっけー」

嬉しそうなみやちゃんの笑顔にほっとする。わたしが知っている世界だとは言え、わたしを知ってる人はいない世界だから。わたしに会えてよかったって、また会いたいって言ってくれる人に会えて嬉しい。妹しかいなくて自分が長女だったから、、可愛がられるような雰囲気がくすぐったいけど。みやちゃんが言うようにもっと砕けて仲良くなれたらいいな。

「食べ終わったら、もう帰っちゃうの?」

「ううん、えっと下着とか、あと日用品とか取り急ぎいるもの買って行こうかなって」

「取り急ぎ…えっ、ほんとに身一つで引っ越してきたの?服以外まで?保護者の方は?」

ドキッ。健在で、今朝も会ったけど。ここにはいない。…そっか、わたし中学生なんだもんなあ。何て言おう。訳有りな感じを漂わせて突っ込ませにくくしちゃうのも嫌だし、結局学校に行ったって同じ疑問を持たれるんだろうし。ありがちな感じで大丈夫…かな…。行け、口から出まかせ!

「海外転勤になったんだけど、着いていくのちょっと怖くって。神奈川に親戚いるから、何かあった時のために引っ越してきたんです」

ちょっとこれ全然ダメじゃね?言ってしまってからボロ出まくりなことに気付いたけど修正のしようがありません。でも他に言い様もないからこれで行くしかない。

「え、じゃあ一人暮らしなの?!」

「はい。家事は何となくならできるので、どうにかなるかなって」

「〜〜っ!だめ、危ない!危険!もうだめ心配すぎるから私の妹になって」

えええええ。まさかの展開。妹が欲しかったから仲良く、じゃなくてガチで妹ですか。それはちょっと無理じゃないですか。どうですか。

「あの、みやちゃん、妹は嬉しいけど、そんなに危険じゃないと思…」

「こんな可愛いのに一人暮らしなんて危ないに決まってる!嬉しいならもう私の妹ね、家に来ればいいじゃない」

ええええ。会ったばかりなのにそこまでしてくれちゃっていいのか、みやちゃん。

「さすがにそれは、」

「…そうね、もう住む場所あるんだもんね…じゃあ週一で泊まりに来ること」

「えっとそれも、」

「だめ、泊まりに来なさい。最低で月一だからね。危ないのもそうだけど、一人なんて寂しいからだめ」

「……ありがとう」

「よし、いいこいいこ」

何だか本当にお姉ちゃんみたいだ。頭を撫でられる感覚が不思議だけど、その内に慣れちゃうのかもしれない。

…ところで。少し離れた場所から、わたし達の頼んだものと思われるランチを持ってタイミングに悩んでるウェイターさんはどうしたらいいんだろう。周りから生暖かい視線を感じるのもどうしたらいいんだろう。…気付かなかったことにして、みやちゃんの気が済むまで撫でられておこうか。

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