「うううう…あああああ…」
痛い。お腹がすっごく痛い。生理はもう終わったはずなのに、下腹部が猛烈に痛くて耐えられない。薬を飲みに行くこともできなくてお母さんに配達してもらった。飲んでから十分経っても中々効かなくて、寧ろ時間が経つ内に段々痛みが悪化してきた。お腹だけじゃなくて腰とか胸までズキズキするし、どの体勢でも痛みが和らいでくれない。口からはひっきりなしに唸り声―呻き声のほうが合ってるかもしれない―が漏れていて、傍から見たら怪しい人だろうなあと思う。でもそんなことよりとにかく痛い。最初の内は寝転がってツムツムしてられる程度だったのに。スキルの強いキャラを狙ってお金貯めてプレミアガチャを引くのとハピネスガチャで妥協してスキルアップ狙うのとどっちのほうがいいのか計算して教えてって柳くんにライン送ったりできたのに。既に携帯をすることもままならない。ああもうやだ。今日の晩御飯は私の好物の予定だったのになあ。こんな調子じゃ食べられるわけもない。もうやだもうやだ。気を紛らわしたくて近くにあったティッシュボックスを投げつけると、壁に当たって床に落ちた。角がぐしゃっと潰れて、自分で投げたのに、なんだか、嫌な気分になった。
ピンポーン…ピンポーン…。遠くでうちのチャイムが聞こえた。何だろうこんな時間に。荷物か、回覧板か…。精市くんならいいのになあとふと思った。精市くんももう部活終わった頃かなあ。時計を見る気力もないからわからない。精市くんにぎゅってしてほしいなあ。精市くんのことを考え始めたら、頭が精市くんのことでいっぱいになった。精市くんがいてくれたら、痛みだって、紛らわせることができるのに。
「うううせいいちくうん…ああああもうやだいたい…せいいちくん…」
「なあに」
「?!!!」
バッ!精市くんの声の幻聴が聞こえて思いっきり振り返ったら、幻聴じゃなくって、本物の精市くんが、ラケットバックを下ろしながら、そこにいた。
「せ、精市くん!」
びっくりして出した大声とさっきの急な動きがお腹に響いてすぐに体はベッドに逆戻りした。精市くんが慌てて近寄って来てくれる。
「だ、大丈夫?」
ぎゅうっと縮こまる私の背中をさすってくれる精市くんに、じわあっと目が潤んだ。
「せいいちくうん…」
「よしよし。辛いね、我慢しなくていいよ」
やさしい精市くんの声を聞いていると、たまらなくて、我慢できない。動くと痛いのを承知で、ベッド脇に立つ精市くんのお腹にぎゅうっと抱きついた。
「う、わっ。なまえ?」
「せいいちくん…」
「…ふふ、今日は甘えたなんだね。でもそのままじゃ体辛いよ」
「やだ、ぎゅってする……せいいちくん、座って」
「うん?……ふふ…ほんとに甘えんぼさんだ」
袖をぎゅっぎゅってしてベッドに座ってもらった精市くんに、起き上がってぎゅうっと抱きついた。もたれかかると精市くんのやわっこい髪がふわふわと当たって、精市くんの匂いでいっぱいになって、心底安心した。最初はびっくりしたみたいだった精市くんも、背中に腕を回してくれて、赤ちゃんをあやすみたいにやさしく手のひらでリズムを取ってくれた。お腹はまだ痛いし、腰だって胸だって、伝わってずきずきしてる。それでも。それより。
「せいいちくん、だいすき」



「…なまえ?」
「…寝た、かな」
「いつもこれくらい甘えてくれてもいいんだよ、なまえ」
「おやすみ」



「精市くん、ご飯どうする?食べて…あら、あらら」
「あ…」
なまえが眠って十分ほど経った頃に、部屋の戸が開けられてなまえのお母さんが入ってきた。少しドキっとしたけれど、何もやましいことをしていたわけではないのだしと思い直した。お母さんは俺の膝に乗っかって抱き着いて眠るなまえを見て驚いたような表情をしてから、苦笑いする。
「ふふ、すみません。寝ちゃったみたいで」
「もう、ごめんねえ、迷惑かけちゃって。全く…赤ちゃんじゃないんだから」
お母さんはなまえを見て一つ溜息を吐いてから、でも、と続けた。
「甘えるの下手な子なのに、精市くんにちゃんと甘えられるのね。ありがとう、精市くん」
優しく笑った表情に、なまえの面影が見えた。ご飯食べていってねと言ってくれたお母さんを見送ってから、俺にしなだれかかって眠るなまえの首元に頭を預けた。あまい、なまえの匂いがする。ついさっき聞いた言葉が頭に残っていて、たまらない気持ちになった。甘え下手なのに、俺には甘えてくれるっていうこと。俺に甘えたいって思ってくれること。普段控えめななまえが俺といる時には俺を求めて、言葉でも、言葉にしなくても、好きって伝えてれる様子を思い返して心臓がぎゅうっとした。俺はこの子が、たまらなく好きだ。

(マイスイートシュガー/140829)

「精市」
「なに?」
「なまえからラインが来ている」
「うん、?」
「体調が悪そうだぞ」
「えっ?ちょっと待って…俺には来てないけど、何で柳に?」
「他にもラインが来ていたから、ついでだろう。ほら」
――またガチャいらないの出たよマスター
――お腹が痛みマスター
――ルーラ…ルーラ…
「…ルーラ?」
「ルーラを唱えて精市をよこしてくれという意味か、或いはルーラでこちらに来たいという意味だな」
「…帰りに寄ってみるよ」
「それがいい」

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