ぱたむぱたむ。持て余した尻尾で芝生をたたく。しばらく経ったが待ち人は来ない。それもそうだ、この待ち合わせは約束のあるものではないのだから。彼が来ないこともあれば、私が来ないこともある。今日はもう帰ろうか。晴れている今日は昼寝日和であるけれどここに用もなく長居をするのは得策でない。見つかると何かと面倒なのだ。
 そう考えている内に足音が聞こえてきてしまった。これは彼のものではない。腰を上げてチラリと振り返ると、少し離れたところにいる男と目が合った。正確には、合ったような気がした。ここからではその細目と視線が合ったのか、顔が向き合っているだけであるのか、判断がつかない。

「お前は…」

 そう呟いた男に、私も見覚えがある。オヤツを貰っている時、何度か見つかったことがあるのだ。その度に注意をされてはいたが、そう警戒する必要はないだろう。彼は、確かこの男を、サン…サンボウ?と呼んでそこそこ信頼をおいているようであった。
 サンボウは近付いてくると、膝を折って私の頭を撫でた。ここからだとばっちり目が見える。

「今日はどうしたんだ?」
「…にゃおぅ」
「ああ、やはりそうか。すまないな、アイツは今日欠席しているんだ」
「にゃう?」
「風邪を引いたらしい。今流行っていてな」
「にゃあ」
「ん?俺は大丈夫だ。しっかりと対策してるからな」
「にゃうにゃう…」
「そうだな。アイツはその辺いいかげんな節がある。お前からも言ってやってくれ」

 サンボウはふ、と校舎のほうを見ると立ち上がった。

「じきに予鈴がなるからもう行くぞ。お前もそろそろ帰るといい」
「にゃあ」
「ふ…お前は賢いな」

 もう一撫でしてからサンボウは校舎に歩いていった。彼とは違ってまっすぐ背筋が伸びている。

「サンボウには負けるよ」

 どうして至極普通に私と会話できているのだろうか。いつぞや、俺らのサンボウぜよ、とどこか自慢げに紹介してくれたのを思い出して、少し意味がわかったような気がした。

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