よく晴れた秋の終わり。散った落ち葉を踏みながら学校へ向かっていると、道路の端に三毛猫が横たわっているのを見つけた。頭の横に何か、生々しい色をしたものが並んでいる。パッと見ただけでは何なのかわからないが、腹部か頭部から、出るべきでないものが押し出されてしまったのだろう。昨日同じ道を通ったときは見掛けなかったし、毛並みに目立つ汚れはない。小さい虫なんかが集ってるわけでもないし、きっとこうなってしまって時間は経っていない。
 端のほうにいるとはいえ、運転する人が気付かなければそのまま轢いてしまいそうだ。彼または彼女の主が悲しむことには変わらないが、できれば、変わり果てた姿ではなくて、なるべく綺麗な、思い出のままの姿であってほしい。少し不安になって後ろを振り返る。丁度車が数台向かってきていた。……ああ、よかった。車は対向車線に大きくはみ出して、その子を避けていってくれた。後ろ髪を引かれながらも学校へ向けてまた足を踏み出した。誰かやさしい人が移動させてくれるといい。私にはできないことだから。
 玄関を素通りして校舎裏の、大きな木の下に行く。そこが彼との待ち合わせ場所だ。まだ誰もいない。大きく伸びをして、冬支度の始まっている寂しげな枝を見上げた。この場所で告白すると成就するなんてジンクスがあると女の子たちが喋っているのを聞いたことがある。実際、ここで想いを告げる場面を何度も目にしたことがあるが、生憎彼はそんな彼女たちを受け入れたことはないようだ。
 木の根もとに腰を落ち着けてからそう時間を開けずに、靴の踵を引きずる特徴的な足音が聞こえてきた。パチリ、と目を開ける。私を視界にとらえた彼はだるそうな顔を一変、優しげに目尻を和らげた。

「おう、待たせたか」
「そうでもないよ。さっき来たところ」
「今日はみやげ持ってきたんじゃ。口に合うといいが」
「ありがと、きっと美味しいよ。いつも私がすきなのだもん」

 佇まいを直して何が出てくるのか待つ。ジャーン、と彼がポケットから取り出したのは細長い青いパッケージ…さけるチーズだ。

「それ!それ好き!」
「はは、好きか。よかったよかった。今さいちゃるからちょっと待ちんしゃい」
「はあい」

 ピリピリ。パッケージを開ける音も待ちきれないでそわそわすると彼は小さく笑って私の頭を撫ぜた。少ししてから細かくさかれたチーズが差し出される。噛むたびにもきゅもきゅと不思議な食感がしておいしい。彼も私にさいてくれながら、もきゅもきゅと摘まんでいた。

「ごちそうさまでした」
「また今度良さそうなの探してくるけえの」
「楽しみにしてるね」

 ゴミをポケットに突っ込んだところでチャイムが鳴る。彼はぐうっと背伸びをしてから、口を小さく開けて欠伸した。髪の毛がふわふわなのも相まって、まるで猫みたいだ。

「はあ…めんどいが行ってくるな。じゃあまた」
「またね」

 校舎に戻っていく猫背を見送りながら、横たわる三毛猫がフラッシュバックした。もし私がそうなってしまったとき、彼は悲しんでくれるんだろうか。




「にゃおぅ…」

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