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from:ゆきむら
sub:おはよう
今日どうしたの、寝坊?

病院から帰ってきたらそんなメールが届いていた。マナーモードにしてたから気付かなかった。遅刻するときは大体連絡するから、それがない=寝てるから連絡できない、になったんだろうな。まあね、そういう日も無きにしも非ずなのでね、そんな方程式になったのは仕方がないというか当然なのですけれどね。わたしが一人暮らしなの知ってるし。
でも残念だったな幸村、今回は寝坊でも仮病でもないのだよ。

to:ゆきむら
sub:病院からただいま
インフルさんでした。
流行に乗ってる´`*

from:ゆきむら
sub:おかえり
確かに流行ってるけど、それは乗らなくていいよ。
具合はどう?いまのインフルは…A型だったかな。熱が高くなるんだった気がするけど、大丈夫?部活終わったあとでよかったら、いるもの届けるよ。欲しいものとかおつかいリストとかあったら送っといて

…幸村…お前その気遣いは中学生にできるものじゃないよ……結婚してくれ…。っていうのは置いといて、正直きゅんとしたよね。嬉しかったです。心配してくれる人がいるありがたみを身に沁みて実感する。もし、ひとりで、こんな状況だったら…辛い。今も、具合悪くたって自分で全部しなきゃだから辛いけど、それでも、一人じゃないんだなっていうのは。大きいことなんだ。

to:ゆきむら
sub:結婚しないか
絶対いい旦那になるよ幸村。なんちゃって。
特にいるものないよ、大丈夫。ていうか来たら移っちゃうからだめよ(笑)心配してくれてありがとね。

…こんな感じでいいか。ずっと画面見てたらだるくなってきた。病院、待ち時間長くて疲れたしなあ。お昼ごはん…は、起きてからでいいや。
幸村から返信早いの嬉しいけど、授業大丈夫ですかね。先生に見つからないようにね。…そんなヘマしないか。



寝る直前にメールをしていたせいだろうか。夢には幸村が出てきた。

「欲しいものは、なあに」

優しい声で、そう言われる。…わたしの、欲しいもの。

「果物のゼリーとか缶詰食べたい?」

小さい頃、具合を崩すと食べてたなあ。

「アイスは?ハーゲンダッツ買ってあげるよ」

うわ、リッチ。優しい。食べたいな、ハーゲンダッツ大好きです。
…だけど。わたしがいま、いちばん欲しいのは。

「…ゆきむら」

「うん?」

「ゆきむらがいい」

「え、?」

「ゆきむらがほしい」

さみしい、と口からポロリと溢れた。



「わーお…」

目が覚めたら五時半でごさいました。マジか。昼食すっ飛ばして夕飯じゃねーか。インフルの吐き気と別に、空腹でちょっと気持ち悪い。時間早いけどもう夕飯食べちゃおう。
そういえば幸村にメール送ったままだったな、と携帯を点灯させるとメール通知が2件あった。どっちも幸村で、わたしが寝たすぐあとの時間と、わたしが起きるちょっと前の時間。

sub:びっくりした(笑)
そうかなあ。でもなまえがそう言うなら、貰い手見つからなかったら貰ってあげるよ。
予防接種受けてあるから大丈夫だと思うよ。もしなっても軽症だろうし。

sub:まだ寝てる?
これから行くね

…え?いやいやいや…どこからときめけば…じゃなかった、突っ込めばいいの?貰ってあげるとかそんな簡単に言っちゃダメだろ神の子…嫁希望の女の子なんてたくさんいるんだよ、もっとよく考えなきゃダメだよ神の子…。予防接種受けててもダメだし…まだ寝てる?って何か把握されてるし…行くねってもう断定だし…。
…ちょっと待てよ、これから、行くね?…ってことは、そろそろ着いちゃうんじゃない?え、部屋着だし、寝起きだし、とてもじゃないけど…
ピンポーン
…。タイミング…!もうちょっと待とうよ…!
一応リビングのモニターで確認してから、ささっと手櫛で髪を直して玄関に向かった。

「こんばんは。具合どう?…ほっぺた、真っ赤だね。熱が高そうだ」

ぴとり。わたしの左頬を手のひらで包んだ幸村はうわ、あつい、と笑った。だからね、そういうスキンシップね…いやじゃないよ、いやじゃないけどさあ…そういう問題でなくてさあ…周りの目とかさあ……あと私の心臓がね。保たないわ。

「ってそうじゃなくて、移るからダメ……ってマスク!着けてない」

しまった。着け忘れたっていうかそもそも家に無いわ。病院の受付でもらったやつは帰ってきてから捨てちゃったし。幸村も幸村でせめて予防してこようよ…。

「俺持ってるよ、柳が念のためにってくれたんだ」

じゃじゃーん、とでも言いたげに幸村がスクールバッグから未使用のマスクを取り出した。

「いや、それ着けてから来ようよ…意味ないじゃん…」

「ううん、今から使うんだ」

「…?え、」

「いいからじっとしてて」

何故かわたしの耳に掛けられるマスクの紐。鼻部分のワイヤーまで合わせられて、装着が完了した。意味不。何これどうすんの?と、マスク姿のわたしを満足そうに見る幸村に首を傾げて訴える。それに対して幸村は優しげに笑って、腰をかがめた。

「ゆきっ…」

ちゅ

「?!!!!!」

え…!?いまなにしたのゆきむら!なにされたのわたし!幸村の顔が近付いてきて、目線が同じくらいになって、え?って思ったら、ちゅって…ちゅって…マスク越しにちゅって…!!!しかも、そんなことをされるとは思わなんだので、目を開けたまま。幸村と、目を合わせたまま。

「ゆき、ゆき、なに…!!」

「ふふ、さっきより顔赤い」

お前のせいだよ!顔熱いんだよ!熱上がったよ絶対!そうじゃなくて何しちゃってんだ幸村。どうしてさっきより満足げな表情してんだ幸村。

「これで暫くは俺のことで頭いっぱいだろう」

「そりゃあね…?離れるわけなくない…?」

「よかった。じゃあ、そろそろお暇しようかな」

そう言った幸村は、マスクを出時に開けたスクールバッグのチャックを閉めた。…え、この為にわざわざ来たの?え…?意味のわからないまま、荷物を担ぎ直す幸村を見つめていると、わたしに手を伸ばして、頬の熱を確かめた時のように手のひらで覆った。

「俺だって寂しくなるから、早く治しておいで」

優しく一撫でしてから手を離すと、幸村は宣言通り帰って行った。
…俺だって、寂しくなるから?わたし、寂しいなんて言ったっけ。確かに、暫く出席停止で、ひとりきりだなって思ったら、寂しくなったけど。…だから、来てくれたんだろうか。
それを埋めてくれようとする手段がちょっと、いやかなり、(幸村の将来が心配的な意味で)マズイだとか。柳はこんな“念のため”にくれたんじゃないと思うだとか。言うべきことはたくさんあるのに、今はそれよりも。そこまで心配してくれた嬉しさと、恥ずかしさと、…幸村で頭がいっぱいだった。手段はさておき効果は抜群のようです。きっと治るまでなんて、あっという間だ。



余談。寝る前に携帯を見るとメールが三通届いてました。

from:ゆきむら
sub:おやすみ
今度寂しくなったら、次はマスク無しでする?(笑)

…あほか!!思い出して顔が爆発した。ような気がするくらい熱くなった。マスク無しとかもう冗談にならんよ幸村!マスク有りも問題ありだったけど!

from:みやちゃん
マスクキスってどういうこと!!!?確かに幸村くん格好いいけど、うっかり惚れちゃダメだからね!友達とまでしか認めませんからね!雅治と結婚して私の妹にするんだからね!…あ、幸村くんと付き合って経験積んでからの雅治なら…いややっぱどうせなら全部雅治に捧げ…いややっぱ私が初めてもらう…?

…情報早すぎるよみやちゃん…。どこから聞いたの…?仁王…?いやでもわざわざ幸村言わないよね…?それからわたしの人生計画がみやちゃんによって立てられてたことにびっくりだよ。仁王と結婚したらほんとにみやちゃんの妹になれるけれども、仁王だって選びたいだろうと思うよ…。あと最後のほう…どう答えたらいいの…?みやちゃん混乱してるね大丈夫か。みやちゃんがほしいならあげてもいいけど落ち着いて。

from:にお
sub:すまん
幸村からのメール見られた。とりあえず今日電話すんのは止めたけど、明日掛け直すかもしれん。
具合大丈夫か?メール来るまで知らんかったぜよ。やっぱクラス違うと不便だな。
俺も明日、マスク持参でお見舞い行こうかの(*´艸`*)

…最後の顔文字かわいいけど、なんか…なんか…いや、気のせいだよね。そうだよね。ていうかやっぱり幸村だったのか。何でわざわざ言うかな…女子に広まったらヤラれる。みやちゃん止めてくれたのは、具合心配してくれたのかな。ありがとう。

…幸村、まさか他の人にもメールしてないよね?出席停止明けが恐ろしいです。




/名前の時点でバレバレだっただろうネタバレ。色んなサイトさんでみやびさんだから自分の中でも定着してました。本編でこんなふうに絡むようにはならないかもだけど、あくまで妄想だし、幸村視点もかきたいなーとか。もやもやパーンする幸村くん。

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