ずっと不思議だったことがあるんだけど。 後輩やクラスの子からもらったらしいお菓子を鞄に詰めている丸井に、食べ終わったポッキーの袋を縛りながらそう切り出すと「んー?」と生返事が返ってきた。実習で作った焼き菓子なんかも混じっているようで、潰さないように入れようと配置を試行錯誤している。全部食べちゃえば問題解決なのになと思ったけど、焼き菓子の数がちびっこたちと同じだったから分けてあげるために残しておいたみたいだ。優しいお兄ちゃんだこと。 「何で初ちゅーはレモンの味って言うんだろう」 「はあ?何で急に…あ、これか」 「そうそう。それ見たら思い出した」 やっと詰め込み完了したらしい丸井がその中からフルーツキャンディーの袋を引っ張り出した。食うか?と言われたからイチゴ味をもらって口に放り込んだ。 「単純にキスした時飴食ってたんじゃね?」 「あー。でも食べながらってちょっとどうなの」 「じゃあ食べ終わった後とか」 「なるほど」 「あとあれじゃん、もしかすっとさ、初めてだからキス失敗して酸っぱい思い出だねー的な感じからレモン連想とか」 「ああ、ありそう!」 「だろぃ?天才的?」 「うんうん。あっでもさ、初めてで失敗ってどう失敗すんの。初めてってソフトじゃない?」 「そこはほら、勢い余って口どころか歯が、みたいな」 「緊張しちゃってとかか。なるほどなあ」 「何の話しとん?」 丸井のおかげで疑問解決したところに仁王が帰ってきた。柳生に用事があるとかで、お昼を食べ終わってからA組に行っていたのだ。 「におおかえりー」 「ただいまー。で、何の経緯でそんな失敗話なん」 「コイツがファーストキスがレモン味っつうのはなんでだって言い出して、酸っぱい体験になったんじゃねって結論に」 「そんな体験嫌じゃな」 「仁王はむしろ上手くこなしてそうだよね」 「んー…イチゴ味かのう」 「何それ、甘かったってこと?でも苺も酸味あるよね」 「てかなまえ睫毛にごみついちょる」 「えっうそ」 「取っちゃるからちょっと目え閉じて」 「あい」 「おい仁王まさか」 ちゅ。 …え?言われた通りに目を閉じたら唇に柔い何かが触れた。何かっていうかえ、これキスだよね?びっくりして目を開けるとぼやけるくらいの至近距離に羨ましいくらいの長い睫毛が見えた。ちらちらと銀色も映るから間違いなく仁王だ。何してんのこいつ、と思ってると仁王の目も開いた。悪戯っぽく笑うときの目をしていると気付いた時には遅く、またリップ音がした。そのまま唇の間から生温い舌が入り込んできて口内を一通り這いずってから口の中に残っていた小さい飴玉を奪っていった。 「何してんだ仁王…」 口の中に残る感触やら何やらに固まる私の代わりに丸井が聞くと仁王がしたり顔で唇の端を持ち上げた。 「ファーストキスはイチゴ味なり」 ああ、なるほどさっき言ってたのはこのことだったのね…ていうか初めてってソフトにするもんじゃないの?仁王これが初めてとか嘘なんじゃないの?そんで私の意思はどこいった。別に嫌じゃなかったけれども。 「何お前なまえ好きだったの?」 「ブンちゃんは嫌いなん?」 「や、ちげーけどそういう問題じゃないだろ」 ですよね。私もお前ら好きだけどそういう問題じゃないよね。ていうかあんまり気付きたくないけど周りからの視線が痛いよね。まったく何してくれてんだ。 昼休みの3B/120501 (私の初ちゅーはレモン味じゃなくてイチゴ味でした。仁王とお揃いだそうです) |