わたしは朝に滅法弱い。一度では起きられないから二度寝用のアラームを掛けている。アラーム音を消してから一時間くらいするとお弁当を作り終わったお母さんが起こしに来てくれて、「起きなさーい」「んー」「起きたー?」「うんおきた」「ちゃんと起きて」「んー」「ほんとにわかってんの?」「うーん起きてる」「寝てんじゃん。いいかげんにしないと水ぶっ掛けるよ」「起きた!!!」というやりとりをしてやっと布団から這い出すのだ。切れたお母さんに一度本当に水を掛けられたことがあるからそれを言われると起きるしかない。顔と髪どころか布団までびしょ濡れで最悪だった。あんな体験は一度で十分だ。

つまりわたしが朝起きることができているのはお母さんのおかげであるのだが、裏を返すとお母さんなしでは起きれないのである。お母さんが寝坊すると、連動してわたしも寝坊ということだ。そういう日がごくたまにあって、今日がその「ごくたまに」の日だった。

「ごめん寝坊したっ!急いでお弁当作るから支度して!」という声に飛び起きて、慌てて身支度を整えた。お母さんが宣言通りに早くお弁当を作ってくれたおかげで遅刻はせずに、始業まであと十分というところで校門をくぐることができた。一安心だ。朝ごはん抜きだったからお腹がペコペコとわたしに訴えているが、今日ばかりは仕方がない。

運動部の朝練が終わる時間帯に被ったのか、玄関に向かう途中で普段は見掛けない人たちがちらほら目についた。わたしが起きる頃には練習してただろう彼らに心の中でご苦労様ですと言いつつ広い敷地を暫く歩くとやっと玄関に辿り着く。中に入ると、温度に大差はないが風が吹いていないことで外よりは幾分温かくて、無意識に縮こまっていた体から少し力が抜けた。冷たい指先を擦り合せながら自分の下駄箱を開けて靴を履き替えていたら誰かが玄関に入ってきたのか急に冷たい空気が通り抜ける。寒さでぶるりとしながらも踵まできちんと履くためにトントン、とつま先を床にノックした。早く暖かい教室に行こう。

ギィ、ガタンドサドサ

「うわっ」

「?!」

急に立った物音に踏み出しかけた足が止まった。ギィは下駄箱を開けた音だとして、ガタンドサドサって何の音なの。

「…えっ」

気になって振り返って、びっくり。プレゼントが地面に散らばっている。それも相当な数だ。どうやってこんなに下駄箱に詰めたんだろう。それにこんなの初めて見た。漫画の中だけだと今この時まで思っていた。プレゼントぎっしり下駄箱の持ち主は取っ手に指を掛けたまま呆けていたけれどわたしが思わず漏らした声で我に返ったのか、こちらを向いて苦笑いをした。

「す、すごいね…」

「うん、俺もびっくりした…」

プレゼントぎっしり下駄箱の持ち主、もとい幸村くんは隣のクラスなので私のクラスと下駄箱が向かい合っている。けれど登校時間は同じじゃないし、それ以外に接点がないので喋ったのも近距離にいるのもこれが初めてだ。幸村くんが格好良いという話を女の子たちがしているのを何度も聞いたことがあるにしてもここまで人気だとは知らなかった。

「いつもこんななの?」

「いや、そんなことないよ。多分、今日だからなんだろうけど…なんで知ってるのか」

「何かの日なの?」

「ああ、俺の誕生日なんだ」

「なるほど…」

先ほどの驚いていた様子の幸村くんに納得した。教えていない子たちからこんなにプレゼントが来たら吃驚してもおかしくない。わたしだったらこわい。人気すぎるのも考え物なのかもしれない。幸村くんは落ちている内の何個かを拾ってスクールバッグに入れたが、すぐに容量オーバーになったようで「どうしようかなあ」と呟いた。まだたくさん残っている。どうにかしてあげたいけど、どうしようも………あ、そうだ。鞄のチャックを開けて、ごちゃごちゃしている中身を探る。すぐに目的のものは見つかった。学校帰りにお使いを頼まれた時用に鞄に入れてあったものだ。

「幸村くん、これでよかったら使って」

「いいの?」

「うん。あ、でもこんな柄だと恥ずかしいかな…」

「ううん、かわいいよ。ありがとう、借りるね」

差し出した花柄のエコバッグを受け取って幸村くんはにっこりと笑った。女の子顔負けの笑顔にきゅんときて幸村くんのほうがかわいいよ、と言いそうになったのをすんでの所で抑える。あげたくなるのもわかってしまったプレゼントを拾うのを手伝いながらちらりと見たら伏せられた睫毛がどう見てもわたしよりずっと長くて「何これ」と思った。運動部なのに肌もわたしより白い。「何これ」

「何が?」

「えっ」

「え?」

しまった、心の声が漏れていた。どう誤魔化そうかと頭をフル回転させて「えーと、あの、プレゼントがね…」とまで言ったもののその続きが思い浮かばない。朝食を食べいないせいなのか、元々頭の中身が悪いのか。できれば前者であってほしいが後者の線が濃いことは歴代のテスト達を思い浮かべれば明白だった。観念して俯いた。

「ごめん、幸村くんがわたしよりかわいいから女子としてどうなんだろうと…思って…」

かわいいなんて言われたら気分を害すに違いない。恐る恐る視線を上げると幸村くんはぽかんとしていた。それからおかしそうに笑い声を漏らしたので今度はわたしがぽかんとする。

「ふふ、かわいいって言われたのは初めてだな」

「そ、そうなの?ごめんね、怒ってない…?」

「怒ってないよ、それにね」

「?」

「きみはちゃんと女の子だよ、俺なんかよりかわいい」

「?!」

この人は天然のたらしなのだろうと確信した瞬間であった。プレゼントの雪崩が起きるわけである。

わたしよりも花柄が似合う幸村くんのかわいさを羨みながら、来年はその雪崩の中に私も入ってしまうのだろうなあと薄々思ってしまったのは気のせいだということにしておきたい。

(flower pettern/0315.Fri)

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