俺の親戚はことの成り行きを、笑いを堪えながら話していた。
「もう告ったときなんかさーあの子たち周り見えてなくてね、しかも英語かよっていう、まあ言い出したのはあの子なんだけど、平和島さんだってさあ、引くならまだしも自分も英語でとか…ぶふっ」
「吹き出すな汚い」
「ひどい」
ひどいのはどっちだ、と思う。呼吸困難になっただなんて聞いて心臓が止まる思いをしたのに、こんな顛末だったとは。まあ俺もその場にいたら笑い転げたのだろうけど。既にインターネットには、あの自動喧嘩人形がどうとかという興奮気味の記事がアップロードされていた。そうした媒介がひどく密接している時代だ、名前が割れている人が対象ならなおさら、プライバシーなんてものは名ばかりだ。情報が載っていたのはたまたま居合わせた若い女の子のブログだったのだが、寄せられていたコメントはどれも嘘だとか冗談だとか、否定的なものばかりだった。そりゃそうだ。あれがシズちゃんじゃなくたって耳を疑うような馬鹿らしい一場面だったのだから。それこそ、文字通り息が苦しくなってしまうほど。
「ていうかさ、何で俺を迎えに呼んだの?普通連絡って親にじゃないの」
「だって臨也、娘が呼吸困難になったなんて連絡が来たらびっくりしちゃうじゃない」
「…」
俺を何だと思ってるのだろうこの子は。俺だって。…って言えていたらこうなってはいない。
「なにムッとしてんの。そんな忙しかった?」
「そういうわけじゃないけど」
「そうじゃん」
「べつに」
「べつにじゃないでしょー」
「べつにだよー」
真似て返事をすると返ってきたのは溜息だった。なんだよ、先にふざけたのはそっちじゃないか。
「臨也もてっきり笑い転げると思ったのに予想外れたなあ。私の気持ちわかってくれると思ったのに」
「そりゃあすごい面白いし笑い転げたかったけどね、人ってね、自分以上におかしい人がいると冷静になるものなんだよ」
「へー誰の事だか」
「うーん誰だろうね、呼吸困難になったの」
「わかんないな、あ、見ていたお客さんかな」
このやろう。
「いざやーのどかわいた」
「セルフサービス」
「いいじゃん持ってきて。また呼吸苦しくなるかも」
「さっきはぐらかしたくせして持ち出すなよ」
「何のことだっけな。あーのどがかわいた」
「…わかったよ」
何だかんだ言いながら、冷蔵庫からこの子の為に買ってあるジュースを出して注いであげてしまう辺り俺は結構手遅れだ。相手が高校生って、ロリコン?なんていう葛藤はとうの昔にどうでもよくなっているにしても、気に食わないことがたくさんある。頭は良いくせに俺の気持ちにまったく気づかないこいつも、呼吸困難になったって連絡を受けてから全部投げ出して駆け付けた自分も。自覚していた以上に大切に思ってしまっていたことが、怖かった。バカみたいだ、今更。自分勝手にしてきた分、覚悟だってしてきた。いろんなものも、自分自身も、すべて失くす覚悟を。そのうえで、楽しい楽しいゲームをしていた。…そのはずなのに。俺はきっと、彼女を失くしてしまったら、耐えることができない。
「はいよ」
「ありがとー臨也大好き」
「あーはいはい都合良い大好きをありがとう」
「そんなことないって。あ、でもおやつもくれるともっと大好き」
「残念ながらこの間妹が食べ尽くしていったからもっと大好きにはなってもらえないな」
「えー…今度おやつ買っといてね」
「気が向いたらね」
喋っている内に飲み干したグラスを暫く眺めたあと、#name1#がじぃ、と俺を見た。


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