多分俺は心の奥底で、諦めていたのだ。
 熱いシャワーを浴びながらアーサーは冷めていく高揚感と、ふつふつとこみ上げる空しさを感じていた。確かに感じた肌の粟立ちも今では夢だったようだ。何もかもを忘れられる一瞬と引き換えに、終わった後で苦しいくらいの空虚が自分を襲ってくる。麻薬みたいなそれがしかし救いでもあってやめられない。アーサーはそうして、目に見えない、ともしたら自分でも気付けない部分を少しずつ削られていた。ヒビの入ったコップみたいに、注いでも注いでも、漏れ出して水は溜まらない。
 ベージュ色の、こういうホテルにしては質の良いタオルで髪を拭きながら部屋に行くと女が背を丸めて眠っていた。はみ出している白い肩に布団を掛けてやる。顔には汗で髪の毛が張り付いている。前髪をかき揚げると乾いた涙の後が見えた。生理的に出た水分を拭うのも忘れて、疲れたまま寝てしまったのだろう。アーサーにとっては助かることで、またそのために普段心掛けているレディファーストも放って自分が先にバスルームを借りていた。
 女よりひ弱だなとからかわれる自分よりずっと薄い色素の肌だ。何年経ったってこればかりは変わらないな、と男では叶わないキメ細やかな頬をなぞる。女の子は砂糖でできている、なんてあながち間違いじゃない。ふっと和らいだ息苦しさが追い付かない内にベッドから立ち上がった。早く帰ろう、あいつらに心配かけちまう。散らばった服を身に着けてもう一度振り返る。
 「…Good night」
 砂糖は唇で触れると何故か少し苦かった。



書きたかったものから逸れてしまって微妙な。
愛してほしいけど諦めているアーサーをどうにかしてあげようと妖精たちが暗躍して何やかんやする話を書こうと思っていました。


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