「ほら買ってきてやったわよ」
波江がテーブルの上にケーキ屋のロゴが入った箱を置いた。自分の分も買ってきて良いと言ったのに箱の大きさから言ってそうはしなかったようだ。謙虚…なのではなく、そんな暇があれば帰って弟に会いたいんだろう。それもそうだ、休日にいきなり呼び出したのだから。
「ショートケーキあった?」
「ええ。あなたも同じで良かったんでしょう」
「うん。苺あげると喜ぶんだ可愛いよ、餌付けしてる気分になる」
「ああそう…もう帰っても良いわね」
「どうぞ。悪かったね、ありがとう」
「いいえ」
その分上乗せしてくれるなら、とだけ言って扉は閉まった。はいはいご期待に添える賃金にしておきますよ。もうそろそろか。時計を見ると九時五十分。十時にと電話で話したからあと十分だ。それまで暇つぶしでもしようとキーボードに手をかけたところで携帯が震える。彼女だ。寝坊でもしたのだろうか、前に何度かそういうことはあった。朝がどうしても弱いらしい。
「もしもし」
「いざや、ごめん今日行けなくなっちゃっ、た」
「…うん?」
「あのね、えっと…あっ」
「はっ?」
電話口からはもうつー、つー、しか聞こえない。何してんだあいつ。性格からして切ったわけではないと思う。電池が切れたか何かだろう。せめて理由を言ってからにしてほしかった。それよりも気になったのは少し泣きそうな声に聞こえた事だ。ほんと何してんだあいつ。

「………」
チャイムを押してもう一分以上経つ。遅い。待ってやろうと思ったけどもうやめた。仕方なしに合い鍵を出して差し込む。あけると玄関にちゃんと靴があったから出掛けてはいないようだ。もしそうだったら怒ってる。誰もいないリビングを通り抜けて寝室に行くと布団が丸く何かを包み込んでいた。名前を呼ぶとやっと気付いたようで、ビクッとして布団から顔を出した。目が赤くなっていてびっくりする。
「い、ざやあ…」
ベッドから這い出てきた彼女にぎゅう、と抱き締められる。滅多にないことに驚きつつ嬉しかったりしながら泣いているのが心配で腰に手を回す。
「どうしたの」
「あ、あのね、行こうとしたらお腹痛くて、生理になって、お、おなか、いたいの」
「薬は?」
「ない、よぅ」
どうしたものかと悩む。男の俺にはどんな痛みかなんて全くわからない。外傷的なものなら怪物のおかげで身を持ってよく知ってるんだけど。波江に薬を頼む…のは、さすがに可哀想だよなあ、二回も呼び出しなんてさすがに怒られそうだ。腰の手を外して頭を撫でる。濡れた睫毛が俺を見上げた。
「薬買ってくるから、少し待っててね」
「や、やだっ」
「急いで行ってくるから。ね?」
優しく言ったつもりなのに余計に涙が零れて焦る。ぎゅうとさっきより力強くしがみつかれて胸元に頭をぐりぐり押し付けられた。ちょっと待て可愛いからやめろ。
「い、いざやがいればいい、から行かないでようっ…」
「………」
ちょっと待て本当に可愛い。いつも意地っ張りで遠慮してばっかりですぐ照れるのに。何だこれ俺死ぬ。とりあえず外した手を元の位置に戻した。
「…わかった、じゃあどこにも行かない」
「ほんと?」
「うん。ちょっと待ってね」
片手でポケットから携帯を出して履歴から変態を探す。こいつは休日に掛けるとすごくうるさいからやめておきたかったけどこの際どうでもいい。
「もしもし何だい臨也僕はセルティと愛を確かめ合っていたというのにゲボォちょっとセルティいくら照れたからってそれは痛いよそんなところも可愛いけど、とにかくね私今日は休日だから連絡するなと言っただろう明日以降でよろしくね、じゃっ」
何か言う前に超早口で切られた。せめて用件を聞け。電話の方が楽だけど仕方ない、運び屋に彼女の生理痛がひどくて泣いてること、薬を届けて欲しい旨を書いて送信すればすぐに了承と謝罪の返事が来た。これで大丈夫だ。
「どうした、の?」
「薬頼んだんだ。すぐ来てくれるって」
「ありがとう」
「いいよ。それより、どうしたらいいの?寝た方が楽?」
「うん…でも、いざやにぎゅってしててほしいから、このままでいい…」
「……ちゃんと一緒に寝るから」
ああもうほんとに俺死にそう、素敵で無敵な情報屋さんなのにな。しがみついた手を離して横になった体に布団を掛けてやりながら自分も潜り込む。お腹を撫でてやろうと手を下腹にやったら服が捲れていて直接肌に触れた。温かくはない俺の手よりもひやりとしている。思わず俺がひやりとしてしまってどうにか温めようと何度も何度も撫でる。しばらくそうしているとぐずぐず言っていた口から小さい笑い声が漏れた。
「くすぐったかった?」
「ううん、きもちい。ありがとう」
「いいよ。そのまま寝ちゃいな」
じゃないと俺が危ない。とは言わない。中学生じゃあるまいしそんなに飢えてないはずなんだけど。むしろ人より大分性欲薄いんだけど。何だかなあ。でも本当に気持ちよさそうに目を閉じてるのを見たらほっとしてそんな気持ちも吹き飛んだ。ずっといるから安心しておやすみ。




そのあと
『着いたんだが』
『今動けないから入って。鍵開いてる』

「折角の休日に悪いね」
『いや、新羅こそすまなかったな。寝たのか?』
「さっきね。いくら人間を愛していてもこればっかりは俺にもわからないから焦ったよ」
『そうか…まあ私もわからないから何とも言えないが、剥がれ落ちるんだろう?想像しただけでぞっとする』
「体は人間と似てるのにそういうのはないんだ?」
『さあな。構造が違うんじゃないか…まあその話はまた今度でいいだろう。その子が起きる』
「そうだね、ありがとう」


岸谷宅
『しししししんら!』
「どうしたんだいセルティそんなに震えて!臨也に何かされたんだったら」
『ちちちがうんだ落ち着け!』
「わかったセルティも落ち着こう」
『そ、そうだな……あのな、あいつにありがとうって言われたんだ、しかも笑顔だったから、いや、ベタ惚れだとは噂に聞いていたんだが、初めて見たから、その』
「ありがとう?!臨也が?!そんなの僕だって言われたことないよ、学生時代から散々手当してやってるのに一度もない。いやあ…恋すると人は変わるって言うけどさすがに怖いよこれ」


おしまい。
短編にするには雑だったので。直せたら上げたいけどわからん。クーデレ女の子書こうと思ったのにでれでれになった。焦る臨也可愛いと思う。痛くなくなりますようにあったかくなりますようになんて思いながら必死にお腹をいいこいいこしてあげる臨也想像したら生理痛どうでもよくなりそうだ可愛すぎる。


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