その先も
☆*゚
「円堂くん、結婚するんだって。」
ヒロトくんから連絡が来たのは三年前のこと。あの頃は皆が皆この先幸せになれると思っていた。実際円堂くんの隣には今も夏未さんがいる。
でも僕の隣には…。
「円堂、寝るな。まだ始まったばかりだぞ。」
「………んが!」
「あいかわらず酒に弱いな…。」
「いやー、みんな本当に久しぶりだよなぁ!おお、染岡!お前全然変わってねー!」
「綱波も全然変わってねぇぞ。壁山もな!」
「そんなことないっスよー。ちゃんと成長したッスよ。」
「でかくなっただけじゃねーか。」
「ははは、違ぇねー。」
フィフスセクターの解散で、また自由なサッカーが出来るようになった。
今日は円堂くんの呼び掛けで、仲間内での飲み会が開かれている。ほとんどのメンバーが集まったけど、やっぱりそのなかに豪炎寺くんはいなかった。
「吹雪くん、最近会えてなかったけど元気かい?」
皆に会えて嬉しいけど、でもやっぱりどこか華がないって言うか、ノリきれないって言うか…。周りと軽く話を交わしていたら何かを察したのか隣にヒロトくんが座ってきた。
「うん。…ヒロトくんは会社が忙しそうだね。」
「社長だからさ。…そう言えば吹雪くんはこれからどうするんだい?」
お酒の入ったグラスを傾けると氷がカチャッと鳴る。
「…北海道に帰ろうかなって。実はまた白恋からコーチをしてほしいって呼ばれてるんだ。」
「へぇ、じゃあしばらく会えなくなるのかな…。」
「まだ決めたわけじゃないけどね。」
最近までは、このまま東京に残ろうかと思ってた。でも、どんなに待っても僕の元に彼は返ってこない。虎丸くんが隣にいるのを見た時、言葉には表せないような複雑な感情でいっぱいで、まぁ正直言うと一番に、寂しかった。
「僕、ひねくれてるのかも。」
「え……?」
「僕以外の人構うならいなくなってやるーって、心の中そんなことばっかり。」
ぐびっとお酒を一気に飲みテーブルに突っ伏す。今日くらい自棄になってもいいよね。どうせ豪炎寺くんいないし。
「はぁーあ、僕こんなに好きだったのに…。」
「吹雪くん?…大丈夫?」
「うー。…僕、いじける。」
「え!?…吹雪くん!?」
頭がボーッとしてくるなかでヒロトくんの驚いた声が聞こえてくる。
だんだん熱くなってきて身体を起こす。なんか溜まっていたものがポロポロ口からこぼれていってしまいそうだ。お酒飲んだの久しぶりだしなぁ…
「ちょっとくらい心配しろー、ばかぁ。僕、ずっとなんて待っててやらないんだからなぁ!」
「お、吹雪ぃ!お前も酒弱かったのかー?顔真っ赤だぞ」
「吹雪くん、少し横になろう。綱波くん、水あるかな?」
「おっけー、ちょっと待っててな!」
今にも叫び出しそうな僕をヒロトくんが制する。
前に皆が集まったときは豪炎寺くんが酔ってヘロヘロの僕を連れ帰ってくれたっけ…。
「ほれ、水だ。飲みすぎて明日に響かせんなよっ」
「吹雪くん、飲める?」
「…………ぼく、つなみくんのこいびとになる。」
酔って思考回路がショート寸前の僕には、なんだか綱波くんが素敵に見えた。いや綱波くんはイイ人だけど、何て言うか綱波くんと付き合ってみたいなーなんてどこから湧いたのか、変な好奇心から出た言葉だった。
「え!?」
「は!?」
もちろん二人とも驚いていたけれど、酔っている僕は相手の反応には無関心。
ヒロトくんに渡された水じゃなくて、テーブルの上にあった誰の物か分からないお酒が入ったコップを飲み干す。
「ふ、吹雪くん。止めときなって!」
「やだぁ、つなみくんと付き合うのー。」
立ち上がって綱波くんのところまで行き綱波くんに抱きつく。見た目よりずっと身長が高く感じた。
「吹雪はどーしたんだ??」
綱波くんから戸惑う声が聞こえる。
「えーっと、なんか昔の恋愛を思い出しちゃったみたいで…。」
「僕のこと愛してるって言ったくせにー…!」
「おい、あぶねぇって」
涙声で綱波くんの胸をポカポカ叩く。もう何を考えて何をしているかもよく分からない。これは本当に危ない人の分類に入るかも。
そんなとき、
「言った。…いまでも愛してる。」
後ろから、ずっと待ち焦がれていた彼の声がした。
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