来年も
☆*゚
そよ風が気持ち良い午後。
円堂は校舎裏の林に、木陰で休む人影を見つけた。
「吹雪!」
今日の練習は午前だけだっため、この時間まで学校に残る者は少ない。
「あ、キャプテン。」
円堂の方を振り向くといつもの笑顔をくれた。
吹雪の笑顔は優しい。それはたぶん皆思ってることだ。
「どうしたんだ、こんな所で。」
足を投げ出し木に寄りかかる姿はどこかのおとぎ話に出てきそうな、そんな感じだ。たぶん相手が吹雪じゃないとこうは感じとれないだろう。
「ちょっと眠くなっちゃって、休憩中なんだ。」
「そっか。」
「よかったらキャプテンもどう?」
隣をぽんぽんと叩く吹雪を見て円堂もその場に腰を降ろす。木に身体を預けると、まるで暖かい何かで覆われているような気分になる。今までこんなふうに時間を過ごしたことなかったけど、結構良いもんだな。なんて円堂は思っていた。
「キャプテンとこんな風に過ごすのは久しぶりだね。」
「あぁ。前は鉄塔広場だったよな。」
以前、吹雪が北海道に帰る前日に鉄塔広場で出会った時からの思い出を語ったことがあった。あれから3ヶ月しか立っていないのにずいぶん前の事のように感じる。
「……吹雪さ、最近豪炎寺とどうなんだ?」
「え…?」
鉄塔広場から帰るとき、二人から付き合っていると聞かされた。それを思いだしふと気になって、唐突であるが聞いてみた。
「聞かされた時は驚いたけどさ。見てるうちに、なんか納得したよ。お前らお似合いだって。」
「あはは、キャプテンに言われると嬉しいな。…キャプテンだって夏未さんとお似合いだよ。」
円堂は吹雪が付き合っていると教えてくれたとき、代わりのように自分が夏未と付き合っていると教えていた。
チームの皆には言っていない。隠しているわけではないが、何か気恥ずかしくて言えないでいる。そんな円堂に夏未はなにも言わない。彼女も周りに自ら言うような人ではない。
だからたまにこうやって吹雪や豪炎寺にお互いの近状報告何かをして楽しんでいる。
「そうだなぁ。…あ、豪炎寺くん3ヶ月で身長が2p伸びたんだって。あとアイスはチョコよりバニラが好きって言ってた。」
「はは、なんだよそれ。」
「えー、笑うとこじゃないよ。」
円堂の反応に吹雪は不満そうに返す。またあの気持ち良いそよ風が吹いてきた。
「いや、なんかさ。お前らが付き合っているって聞いてから、何だか二人が一気に大人になった気がしてたんだ。……でも、そうでもなかったみたいだな!」
「なんだいそれ!…まったく。キャプテンが聞くから言ったのに。」
円堂はチラッと横を見ると、吹雪はぷくっ頬を膨らませていた。
木漏れ日の光が優しく二人を包んでいる。
「俺、誰かと付き合うってもっと簡単な事だと思ってたんだ。」
夏未に告白されたとき、俺も好きだったから付き合った。でも好きって気持ちだけじゃダメなんだって、最近気がついた。
様子を見る限り、豪炎寺と吹雪はその事を知っていると思う。
「……俺、夏未を幸せにするよ。」
円堂は顔を上げ、木の枝々を見上げて言った。
吹雪はそれを聞きながら、あのやんわりとした雰囲気を放つ。
「きっと、キャプ……円堂くんなら大丈夫だよ。」
「ほんとか!?」
「うーん、…そりゃ簡単には無理だけどさ。……でも円堂くんが夏未さんを思うように、夏未さんも円堂くんを思っているよ。…だから、どんな時も信じてあげなよ。」
その時円堂が見た吹雪の表情はとても穏やかだった。
あぁ、豪炎寺は素敵な恋人を持ったなって。
「……。…僕もたまに豪炎寺くんと喧嘩するんだ。」
「…え…?」
吹雪の言葉に、胸の内を突かれたように驚き、おもわず見つめる。
「でも結局、どっちかが折れて仲直りするんだ。ふふ、やっぱり喧嘩って好きだからするんだと思う。…夏未さん、きっと待ってるよ。」
吹雪は分かっていた。
そう。円堂は夏未と喧嘩真っ最中だった。ひとり悶々として気をまぎらわそうと校舎を歩いていたら吹雪を見つけたのだ。
「キャプテン分かりやすいから。」
「……はは!吹雪には叶わないな。」
「お互い様だよ。ほら、早く。」
円堂に催促し、夏未のところへ向かわせる。
円堂はここへ来たときより気が晴れたような、いつもの笑顔をして立ち上がった。
「ありがとな!じゃあな!」
「うん。また明日。」
ひらひらと手を振り、吹雪の場所を後にする。
まただれもいなくなった校舎裏。
耳をすますとッサッサ、と円堂が走っていったのとはまた別の方向から足音がする。
「吹雪。ここにいたのか。」
「うん。ちょっとお話してたんだ。」
足音の主は豪炎寺だった。
「心配したぞ。」
「ごめんね。」
豪炎寺が手を差し伸べると、吹雪の手が重なり立ち上がる。
二人は立ち上がっても手を離さなかった。
「もうすぐ四時だぞ。ここは冷える。帰るぞ。」
「うん。……ふふ」
「ん?どうかしたか?」
「ううん。なんでもない。」
手を繋ぎながら歩く。
身長が伸びたこと、バニラが好きなこと、心配性なとこ、手が大きいとこ。些細な事に見えるけれど吹雪にとっては大きな幸せを生む。
肩を並べて歩くたび、恋人が豪炎寺で良かったと思うばかりである。
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