豪吹

某旧電波塔にて



「わぁ…。僕、上京したら絶対来たかったんだよね。」

吹雪は展望台からの景色に歓喜の声をあげる。豪炎寺はそんな吹雪を横目で見ながら恋人との時間を楽しんでいた。

「今の時期なら、新しく出来たやつの方がよかったんじゃないか?」
「ううん。やっぱりこっちの方が、THE 定番!って感じ。ご利益ありそうだよー」
「なんのご利益だ…。」

ここに来たいと言われたとき、新しく出来た電波塔を進めたのだが吹雪はこっちがいいと言った。
てっきり観光客も少なくイチャイチャ出来るからだと思っていたのに…。
豪炎寺の予想を越し、観光客の数は昔テレビで見たその時と変わらないように感じる。

「あ!ねぇ、絵馬があるよ。」
「こんな所にか?」

豪炎寺は都心に住んでいるが、人がごった返す場所に自ら来る事はなかった。むしろ観光地なら吹雪の方が詳しい。

「やっぱり恋愛関係が多いね…あ、合格祈願がある。こっちは全国制覇だって。ふふ…なんだか自分と照らし合わせちゃって、昔を思い出すな…。」
「…そうだな……。」

吹雪に触りたい豪炎寺は人混みを疎ましく思い始めてきた。
たまに周りから「あの人かっこいー」だの「灰色の髪の子、可愛くて好みだな。」などの声も豪炎寺の耳に入り、さらに眉間にシワがよる。

「キャプテンたちへのお土産は何がいいかな。あ、夕香ちゃんにも買わないとだね。」
「あぁ。」

吹雪が楽しそうだから、この雰囲気を壊したくない。早く帰りたいとは思っていても、吹雪といて楽しくて結局周りなんかどうでもよくなるんだ。
はしゃぐ吹雪を追いながら何気なく辺りを見回したとき、アルものを見つけ思い付いた。これなら周りを気にしなくていいだろう。

「吹雪。ちょっとこっち。」
「え?なに?………わぁあっ」

吹雪の二の腕を掴んで、床がガラス張りになって下が見える場所まで行き立たせると、驚いてしがみついてきた。豪炎寺の思惑通り。

「こ、こわぁ…。」

キュッと握りしめられた上着。
豪炎寺は吹雪の腰にそっと手を回した。この時点で周りから見たらアウトなのかもしれないが。

「た、高いんだね。……そろそろ離して?」
「嫌だ。」
「ねぇ、怖いから!ホントに落ちちゃったらどうするの!?」
「吹雪、暖かいな…。」
「ねぇってば………んー。」

吹雪は豪炎寺の意図に気づいたのか少しおとなしくなった。が、やはり周りの目を気にして落ち着かない様子だ。

「……たくさん人がいるよ…?」
「あぁ。」

離してくれそうにない豪炎寺に吹雪も対策を考え始める。きっと豪炎寺くん、甘えたいんだ。最近忙しくて会える機会も少なかったし…。いつも僕はしてもらってるばかりだから、たまにはいいかな。

「ねぇ、帰ったらいっぱい抱きしめてあげる。」
「え…。吹雪。」
「あと、一回だけ僕からちゅーしてあげる。」
「……一回だけなのか?」
「だって恥ずかしいよ。」

気がつけば二人ともガラス張りの足元の事なんて忘れていた。

「じゃあ、早く帰るか。」
「……だめ。せっかく来たんだから観光して帰らないと。」

お楽しみはお預けとばかりに豪炎寺から離れる。
吹雪は意志が固い。
付き合ってやるか…。妻の買い物に付き合う夫ってこんな感じ何だろうな。とか考えながら、豪炎寺はお土産を選ぶ吹雪の片手をそっと握った。少し驚いた吹雪だったが、握り返してくれた事に豪炎寺は満足した。吹雪としても、結局のところ展望台からながめる都心の美しい町並みも豪炎寺の隣で見る景色には敵わなかった。






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