16

意識がだんだんと戻ってくる。
ここはどこだろう?辺りは真っ暗で何も見えない。怪我をしていた部分が妙に熱い。

「目が覚めたかい?」
「!?」

近くで声がした方を向く。けどやっぱり何も見えない。腕を動かすけど気を失う前に後ろで縛られていてたままだ。どうにかしようと縄と格闘する僕にまた声は話しかけてきた。

「すまないね。本当はこんなことしなくないんだよ?でも暴れられると大変なんだ。でもそのかわり、肩の傷は縫ってあげたから。大丈夫、ちゃんとした医者だよ。」

肩の怪我が本当に治療されたのかこの状態では分からないけどいつもの痛みもないと言う事は麻酔を使ってくれたんだろうか。そのちゃんとした医者かどうかは信用はできないけど。いまは信じざるを得なかった。人の気配は確かにするのに、頭をどこに動かしても何も見えない。目隠しをされているからだ。ここがソファの上なのか、ベッドの上なのか分からないけど硬くはない場所に寝かされている。それに聞いたことがない声。最悪な状況だ。あの男が言っていたように僕は本当に売られてしまったんだろうか。明後日は準決勝なのに。全部終わらせて帰るつもりだったのに。だけど深く考える心の余裕はなかった。だいたい言葉で言って終わらせられるなんて甘い考えだったのかもしれない。

「あぁ、テレビや写真で見るより見た目も声も綺麗だよ。」

視覚と両腕の自由を奪われた恐怖が僕を支配する。僕をどんな目で見ているのか、これから僕をどうするのか。このままでは何をされても反撃できない。縄を解こうとする手は震えていた。

「吹雪、何か言いなさい。」
「…。」
「吹雪。」
「ぃっ…!」
「ダメだろ。主人の言うこと聞かないと。」

パシッと僕の頬に平手が打ち当たる。痛い。何で僕にこんなことするんだろう。声の低さから男だと言う事は分かった。主人の言うこと聞かないと?僕をペットか何かだと思っているの?今まで三人の男にいいように侮辱されて使われて、挙げ句の果てに勝手に売られて、あんまりだ。僕の心はもうボロボロだ。こんなことされるためにあの日生き残ったんじゃないはずなのに。迷った時もあったけど僕なりに道を外さず生きてきたはずなのに。その事にさえ今の僕は自信を持てそうになかった。でも手は必死で縄から抜け出そうともがく。怖い。だけど諦めてしまったらそこで僕の心は死んでしまいそうな気がしていた。

「吹雪、泣いてるのか?」
「…ちがいます。」
「嘘はダメだよ。」
「いたっ….。」
「素直に言えない子はお仕置きだ。」
「何するの、やめて!助けて」

男は僕を担ぎ上げてどこかに移動する。自由な足をバタバタと動かすけど、男には何の抵抗もきかない。恐怖が限界を迎えようとしたいた。

「なに言ってる。助けに来る人なんていないだろ。」
「僕には信頼出来る仲間がたくさんいるんだ、だから」
「だから?お前は自分からその仲間を捨ててきたんだろ。」
「違う…それ、は」
「違わないだろ、そんな自分勝手な奴を誰が助けに来るんだ。信頼している仲間をお前が一番信頼していないじゃないか。」
「……。」

ハッとして僕は何も言えなかった。男の言っていることが的を貫き過ぎていた。確かに僕の今の行動は自分勝手だ。巻き込みたくないと言ってひとりで抱え込んで、でもひとりは嫌だと豪炎寺くんに泣きついてしまったり。矛盾しすぎてる。でも豪炎寺くんも、キャプテンもみんな...みんなのことが好きなのは本当なんだ。今も練習に励んでいるだろうあのいつもの光景が思い浮かぶ。気が付くと僕の足は抵抗をやめていた。

近くでがちゃりとドアを開ける音がした。
今までとは違うひんやりとした空気を身体が感じ取る。

「ほら。着いたよ。」

男は僕を床に降ろすと目隠しと縄を切り取った。入れられた部屋は真っ暗で、入ってきた扉からのみ光が差し込んでいた。目が慣れないのと逆光のせいで男の顔はよく見えないけど、足や頭に触れた手の感じから中年ぐらいだろうと思う。

「っ!?まって!」

男は僕を置くとすぐ部屋の外に出て扉を閉めた。思いがけない行動に戸惑う。唯一の光を絶たれて何も見えなくなった。これじゃ目隠しをされていた時と変わらない。落ち着かずに辺りを見回しているとプツとどこかで音がしてどこからか放送がはいった。

「君は少し前までふたつの人格を持っていたよね?いまの君も好きだけど、ふたりの君がいたほうが美しいと思はないかい?」

男の声は楽しそうに弾んでいた。僕は寒気がして身体を縮める。

「あの頃の君に会えなかったのは残念だったけど、今からでも遅くない。実際に多重人格者を使った事はないけれど、計算ではできるはずだよ。」

その言葉を最後に放送はプツリと切れ、同時にゴロゴロとものすごく大きな音が聞こえてきた。


- 25 -


[*前] | [  ]
[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -