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吹雪がいない


吹雪が、いない!


待っててくれって言ったじゃないか…!



「どうした?さっきからドタバタと…」

夢中で宿舎の中を駆け回っていたら、鬼道が自室から顔を出して声をかけてきた。

「吹雪が、いないんだ。」
「吹雪?」

とりあえず中へ入れ。と手招きされ中へ入り、呼吸を整えながら大まかな状況を話した。言おうか真剣に迷ったが、こうなってはもう俺ひとりではどうしようも対処できなかった。嫌な胸騒ぎがするんだ。なんだか、吹雪がもう帰ってこないような気がして…。
もちろん吹雪の嫌がるような事は教えていない。

「………つまり、吹雪は何かで脅されて半誘拐されていると…?」
「ああ。」

あのいつものおっとりとした雰囲気からは察しがつかなかったようで、鬼道は少し眉を寄せた。

「本当なんだ。」
「いや、疑っている訳じゃないんだ。…ただ仲間として、今まで気づいてやれなかった事が悔しくて、な。」
「鬼道…。」

鬼道は勘が鋭い。気づけなくとも内容には察しがついたんだろう。

「それで今も吹雪はその者達のところへ?」
「あぁ。たぶんな。」
「…この雨の中を行ったのか……。」

鬼道は窓ガラスにあたっては流れていく雨をじっと見つめた。
そうなんだ。吹雪は強い雨風が苦手のはずなのに行ったんだ。並な行動力じゃなかっと思う。

「急いだ方が良いな。」
「円堂や他のみんなには言わないでくれるか?」
「もちろんだ。たが最近吹雪の様子がおかしかったのは皆も心配している。」
「それは吹雪から話してくれると思う。……帰ってきたら。」
「なんだ。お前にしてはえらく自信がなさそうだな。」
「吹雪は脅されていることで一時的なマインドコントロール状態に陥っている。」
「ふむ。近年のストーカーもよく使う手口だな。…そうだな。吹雪が、被害者だと自覚しなければ…、?どうかしたのか。」
「…俺は吹雪を助けたい。……でもいま、吹雪は助けを必要としているのか分からなくなった。」


今まで俺が何度手を差しのべても、吹雪がその手を取ることはなかった。それに今回は俺を置いて行ってしまうし。

「はぁ?お前は吹雪を助けるために、俺に話したんだろ。……だいたい、アツヤの時もお前は吹雪に助けてほしいなんて言われなくとも首を突っ込んでいただろうが。いまさらだ。」
「………だ、な。…そうだよな。」

鬼道にこんな風に言われたのは初めてだった。たが、おかげで我に返ることができた。感謝する。

鬼道は立ち上がると、部屋のドアを開けた。

「ほら、支度してこい。まさかその頭で行くのか?」
「え……あ。」

そこで髪のセットを忘れていたのに気づいた。こんな髪型で走り回っていたのか俺は。…吹雪も教えてくれればいいのに。

「その間に俺は色々調べておこう。」
「ああ。悪いな。」

鬼道の部屋を後にし、自分の部屋を目指した。
そして歩いている途中、ホッとしている自分がいるのに気がついた。いつ入っていたのか、肩の力がスッと抜けたような…。

あぁ。そうか。
吹雪には一人で抱え込むなと言ったくせに、俺自身も同じような事をしていたんだな。
俺たちは、意外と似ているのかもしれない。

さっきまで走り回っていた廊下は静かだった。

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