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俺は何も言えなかった。ただ、今にっこりと愛想笑いをする吹雪を俺は知らない。
嘘、だろ……。
「……ふ、ふぶき?」
「はい。」
声が震えそうになるのを抑え、名前を呼べばあっさり返事が返ってきた。
「吹雪。」
「はい。なにか?」
ここから先を聞くのが怖い。答えは見えている。吹雪はきっと俺の事を知らない。その真実に俺は立ち向かえるのか…。
だがその時。
「はは、ばーか。たかが頭ぶつけたくれーでてめぇの事忘れっかよ。」
「!?」
聞き覚えのない声に思考をさえぎられ伏せていた視線をあげる。一瞬誰から発されたのか分からなかったが、俺でないなら必然的に残りのひとりになる。
「…なんだ。お前、知らねぇの?俺だよ。…そっか、こんな風にお前に会ったことなかったっけ。」
「………吹雪、…だよな?」
「あぁ。吹雪士郎だよ。ひとりぼっちの吹雪だ。」
「!?」
さっきとはまるで別人の様に話し出す吹雪は聞き覚えがあった。別人の様な吹雪。それは吹雪が14歳の時、寂しさからもうひとりの人格を作り出してしまったというあの…
「あつや……か?」
言うと吹雪はいつもとは違う笑みを見せた。
「あー。頭いてぇ、……、後遺症とかは特に無さそうだな。…よっと。」
アツヤはなかなか動けずにいる俺を尻目に身体の無事を確認するとベッドからぴょんと降り、窓から街を眺めた。
「……街が人でごちゃごちゃしてきたな。前はこんなんじゃなかっただろ。」
「なんで今さら…」
人格はあの時に統合されたんじゃなかったのか…?
「俺が出てきた理由。わかんねーの?」
「…ああ。」
「本当にしょうがない奴だな。…お前が、士郎をひとりにしたからだよ。」
その言葉に唖然とした。
そして酷く落胆した。こんなに吹雪を追い込んでしまった理由は俺にあったなんて。
「まぁ落ち込むなよ。死んでないだけいいだろ?これからよろしくな。豪炎寺。」
振り返ってこちらを向くあつやの顔は見れなかった。
俺は同棲し始めた頃を思い出していた。もう一度あの笑顔で微笑んでほしかった。吹雪に会いたかった。
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