「……ふぶき?」

返事がない。当たり前だろう、眠っているんだから。
ベッドの側まで行き頬に手をそえると、少し前に会ったときより痩せたように感じた。

「もうすぐ医者が来ると思う。…俺は少し、散歩してくるよ。」

風丸は俺に気を使ったのか部屋まで案内するとどこかへ行ってしまった。

病室に二人きりになった。
一緒に暮らしてるんだからこうして二人だけになるのは珍しくないはずなのに、そうとも言えない態度をとっていた事を思い出すと胸が締め付けられたように苦しくなる。本当に苦しいのは吹雪の方なのに。
目が覚めたら吹雪は俺に何て言うだろうか。考えたくはないが別れ話を切り出される可能性だってある。
それくらい吹雪を頼りすぎていた。吹雪の気持ちが変わらない確証なんてないのに。

近くにあった椅子を引き寄せ腰をおろす。

「ごめんな。」

そばにいれなかった悔しさが込み上げてきた。吹雪の白い手を握るとほのかな暖かさが伝わってくる。
大丈夫だ。吹雪は生きている。起きたら一番に思いを伝えたい。

「………。!」

ピクリと指が動いた気がした。顔を見ると苦しそうに眉を寄せている。

「吹雪!」
「……ん。」

うっすらと目が開いた。

「………?。…あたま、いたぃ」

焦点の合わない瞳で俺を見ようと目を凝らしている。

「あ…ぼく……。」
「動かなくて良い。」

頭を押さえながらも起き上がろうとするから、軽く肩を抑してシーツへ戻した。

「…吹雪、よかった。ごめん。俺ずっと…」

ボーッと天井を見つめている吹雪の頭をそっと撫でてやるが反応がない。

「……吹雪?」
「………しろい」
「ん?」
「……ぼく、どうして…。」

どうやら事故にあった時の記憶が飛んでいるらしい。
…まだ天井を見たままだ。

「事故に合ったんだ。覚えてるか?…昨日風丸と出掛けた帰りに。」
「……じこ…。」
「もう少しで医者が説明に来てくれる。」
「じゃあ…あなたはお医者さんじゃないんですね。」
「…は?吹雪?」
「……お医者さんは、僕が誰か知っているでしょうか。」
「……ぁ…。」

俺は声を出せず唖然とした。
そんな、まさか…いやだ、吹雪。

「そうだ、あなたは僕を知っていますか?…ちょっと思い出せなくて。すみません。」

やっと俺の方を向いてくれたのに、その困ったような微笑みは俺の知っている吹雪のものではなかった。




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