13


怖かった。僕を知られるのが。

『俺が吹雪を守る。』『大丈夫』
豪炎寺くんが何度も言ってくれた。なんであんなに優しくしてくれるんだろう。


眠りが浅いせいか風が窓をたたく音でも遠退いていた意識が戻ってきてしまった。
目をあければ、静かに規則正しい寝息を立てる豪炎寺くんがすぐそばにいる。こういうあどけない姿を見ていると、なんだか安心する。完璧な豪炎寺くんも、人間なんだなー、って。

そっと布団を抜け出した。腕から離れるのに少し寂しさを感じた。豪炎寺くんの腕のなかって暖かくて気持ち良かったから。けど、いつまでもそばにいることは出来ない。



部屋を出ると窓の外は酷い雨だったけど、廊下は早朝独特の清らかな空気が流れている。震える息をなだめるために深呼吸をして、自分の部屋に向かった。
最近僕の様子がどこからか観察されている。宿舎の中にいてもだ。いったいどうやって見ているのか検討もつかないけど、おとなしくしているに越したことない。
歩き始めると、肩の痛みが思い出したように出てきた。水をのみにフラりと寄った食堂で、ちょうど朝食を作っていた秋さんから痛み止をもらって部屋に入った。




"12時"と。開いた携帯には短文のメール。ただそれだけの言葉だった。でも、十分伝わった。
歯がカチカチなって身体が震えているのが自分でも分かる。血の気も引いて、きっといま酷い顔しているんだろうな…。

僕、いつになったら解放されるんだろう…。

床にぽとりと携帯を落とした。
先の見えない恐怖やそれから逃れられない絶望。
座り込んでただ思うままに床を見つめる。
もし、もし僕がメンバーから外れたら止めてくれるのかと何度か考えた。でも出来ずにいるのは、代表選手はこの場に立てなかった皆の思いを背負ってるってこと。

もうただの趣味じゃない。私情とごちゃごちゃにしちゃいけないんだ…。



しばらくして、慌てた様子で豪炎寺くんがやってきた。
僕を抱き締めて「行かないでくれ」だなんて。やっぱり、君は優しい…。でも優しすぎて、辛いな。君を巻き込みたくないから、君が近づくたび僕は君にとって最低な人間にならなくちゃいけない。

…嫌だよ。
こんな気持ち初めてだ。
今まで周りからどう想われようと気にしなかったのに、豪炎寺くんだけには…嫌われたくない。

僕、豪炎寺くんがあんなに手を差しのべてくれているのに信じきれていなくて、あまつさえ拒絶したような態度をとったのに。でも豪炎寺くんはそれさえも包み込んでくれるんだ。

…………あぁ、そうなんだ。
この気持ち。豪炎寺くんの事が苦手だって訳じゃなかったんだね。僕したことないから知らなかったけど、たぶん恋しちゃったんだ。

でもだとしたら本当に、悲しいな。
だって。こんな汚くなった身体で愛してほしいなんて、とてもじゃないけど言えないよ。


でもいいんだ。豪炎寺くんからたくさんの勇気をもらった。冷たい言葉で拒絶したのに、僕を受け入れて抱き締めてくれた。本当の僕と向き合ってくれた。泣いてる僕の心に光をくれた。
不器用で強引な面もあるけど、そういうところ好きだよ。

僕も一歩、勇気を出そうと思えるようになったんだ。
だからごめん。
待っててって言われたけど
僕、行くね…。




- 22 -


[*前] | [次#]
[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -