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とにかく全速力で走った。風より早いんじゃないかと思うくらい。思考なんて働いていなかった。
吹雪……吹雪…、吹雪!
「あの!今朝救急で来た吹雪士郎はどこにいますか!?」
「吹雪、さんですか?、…えっと……確かさっき手術が終わって、いま三階東の病棟に移されたと報告がありましたけど…。」
病院に着くとすぐ急患受付に向かい、エレベーターも待っていられずに勢いで階段をあがる。三階東は確か脳外科病棟のはずだ。
「っあ!豪炎寺!」
「風丸!?」
階段を上がったところで、連絡をくれた風丸が缶コーヒーを買っているのに出くわす。電話してから予想以上に早くついた俺を見るなり目を見開き。
「おまえ……、ぷっ、はははは」
「?なに笑って」
「だって、はは…おまえ、パジャマって…はははは、腹痛い」
「…あ。」
目の前で爆笑する風丸に言われて自分の身体を確認すると確かに寝間着だった。連絡を受けてから無我夢中で走ってきたから着替えなんて思いもつかなかった。しかも靴ではなく健康サンダル……。やってしまった、と思ったがもう後の祭りだ。
「それより、吹雪は!?」
「あぁ、目はまだ覚めないけどな。」
「生きてるか!?無事なのか!?」
「生きてる。無事まではいかないけど、いま医者待ちだ。」
「……そうか…。」
はぁー、と息を吐く。
「…落ち着いたか?」
「あぁ、色々。」
とりあえず命は無事だったようだ。安心して今にもこの場で崩れてしまいそうな足を必死に立たせて病室へ向かう風丸の後を追う。
「24時近かったかな…」
歩きながら風丸が状況を教えてくれた。
吹雪は帰る途中に起きた酒気帯び運転の事故車に巻き込まれたという事だった。
怪我人は軽傷者も含めて三人。歩道に乗り上げた事故車両は暴走して100m程辺りの物や人をはね飛ばしながらし電柱に突っ込み停止、吹雪はその最初の被害者だった。
「車とぶつかった直後は意識もあって大丈夫そうだったんだけどな…。頭打ったとき、中で出血があったみたいで。警察に事故の事聞かれてる途中にいきなり……。」
「お前は大丈夫だったのか?」
「見ての通りさ。」
風丸は肩をすくめる。
吹雪はもともと風丸と仲が良い。昨日も午後から一緒に出かけていたらしい。
「俺がついていたのに、ごめん…。」
呟く様にこぼれたそれが、風丸の本心だと思った。
「俺、自分だけ助かったのが申し訳なくて…。正直お前に会うのが怖かったんだ。」
「風丸…。」
「もし吹雪が目覚めなかったらって……。」
「風丸っ」
「!…ごめん。」
思えば目の前で友人の事故現場を見るなんて一番辛かっただろうに。出会って今までそれを感じさせないところが風丸の凄いところだ。
「俺はお前が無事で良かったと思ってる。きっと吹雪だって。」
「…!……あぁ、ありがとう。」
病室のドアをゆっくり開くと、そこには会いたくて会いたくてしょうがなかった吹雪がまるでおとぎ話に出てくる姫の様に静かに眠っていた。
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