12
目が覚めたとき、腕のなかにいたはずの吹雪がいなくなっていた。
「あ!豪炎寺、おせぇよ!」
「悪い、円堂。」
「まぁたまにはこんな日もあるだろう。今日はこの雨で練習はなくなったしな。」
「そうか…。」
起きた時には8時を回っていいて、驚いてサッと支度を済せ外に出ようと入り口に向かったが、そこで天気が大荒れになっているのに気づいた。部屋にいるときは雨の音なんて全く聞こえなかったのに。
仕方なく皆を探して食堂へ行けば、案の定やる気を削がれた男達がグダグダと時間を過ごしていた訳だ。
「どうしたんだ?キョロキョロして。」
「……吹雪は?」
「吹雪?…そういやまだ見てないな。鬼道みたか?」
「いや、俺も見てない。」
「なんだよ、今日はみんな寝坊かぁ?壁山なんて、ていきあつ?のせいで頭痛がするってマネージャーから薬もらってたしよ。」
「まぁこんな酷い雨なんだ、体調に出なくとも気分は沈むな。」
嫌な予感がする。
明日病院に行くとは言っていたし、俺と一緒に行くことも勝手だが了承していると思っていた。はじめは嫌がっていた吹雪だ、ひとりで自分から病院に足を運ぶとは思えない。
「少し様子を見てくる。」
「おぅ。あ、練習の事吹雪にも伝えといてくんないか?」
「わかった。」
食堂を後にし、足早に廊下を歩く。
この雨で外に行くことは考えられない。となると居場所はだいたい決まってくる。
コンコン、と軽くノックをすると中から「はぁい」と吹雪の声がした。そう、ここは吹雪の部屋だ。見られていて落ち着かない、とは言っていたが宿舎の中で食堂と風呂以外に行くとしたら自分の部屋だけだろうと思った。
姿を確認しようとガチャッとドアノブを回すが、開かない。鍵をかけているようだ。
「吹雪。開けてくれないか?」
「あ、豪炎寺くん?…ごめん。ちょっと待ってて。」
その声が聞こえた後、中からガチャッと解除し扉から吹雪が出てきてまたすぐ扉を閉めた。
「何かようかな?…わわっ//」
不自然な行動も気になったが、吹雪がちゃんとココにいるのを見たら急に身体の力が抜けた。自然と腕が吹雪の身体を包み込む。
「探した。」
「あ…ごめんね。」
「傷、大丈夫なのか?」
「うん。マネージャーから痛み止めもらって飲んだし。」
「頭痛のだろ?」
「でも効いたよ?」
「………。」
何て言うか、安より呆のため息しか出なかった。吹雪が嫌がらないのを良いことに、離したくなくて、吹雪の髪に鼻を埋める。
「……どうして部屋に?」
「あ、えっと携帯が気になって…。」
「携帯?」
「うん。」
そう言えば吹雪の携帯には呼び出しのメールが何件か着ていた。…俺が勝手に見たことに気づいていないといいな。
「………?、私服なんて珍しいな。」
背中に手を回そうとした時、吹雪は練習着ではなく持参しただろうジャージを着ているのに気づいた。少し身体を離し吹雪の表情を伺う。
「…あ、…うん。」
「どこか行くのか?」
「え、えっと…あの…。」
反応からして分かった。きっとまた呼び出されているんだろう。…なんで俺に言わないんだ。
「どこに行くつもりだ。」
「!…ぇ…ぁ…」
「行くな。」
「!?豪炎寺くん…?」
「行かないでくれ。」
さっきよりも強く抱き締めた。吹雪が心を開いてくれるまで待つ、なんて自己宣言しておきながら口から出る言葉は急かすようなものばかりだ。
「……大丈夫、だよ。僕なら平気。」
「なにが大丈夫なんだ。」
吹雪の声は震えていた。
「すぐ帰ってくるよ。…僕が行けば、みんなが大丈夫なんだ。」
「ダメだっ、……そうだ。病院に行こう。昨日約束したよな。」
「うん。…でも、」
なんで、そんなになってまで行こうとするんだ。
「ここで待ってろよ。すぐ支度してくるから。」
「あ!…豪炎寺くん!」
吹雪の言葉を遮る。無理矢理にでも行かせないように、言うだけ言うとその場から逃げるように後にした。吹雪が何も言葉を返せないうちに…。
こんな雨だ、傘はいるだろうし財布だって…あと円堂にも連絡してこないとだな。
俺だけなんだ。
いま吹雪を助けられるのは、俺だけなんだ。
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