『豪炎寺くん!』

ハッと目を覚ました。吹雪に呼ばれた気がしたが、まだ吹雪は帰っていなかった。なにか夢を見ていたのか……?
どのくらい眠ったんだろうと時計を確認すると、午前1時だった。近くで事故があったのか救急車の音が聞こえた。


何時間後にはまた大学に戻らなければいけない。それまでに吹雪は帰ってくるだろうか…
てっきり家にいるもんだと思っていたから、これは予定外だった。電話も繋がらないんじゃ連絡も取れずどこにいるのか分からない。

………待とう。
大学に戻るのはやめだ。吹雪はずっと待ってくれたんだ。だったら次は俺が吹雪を待つ。


とりあえず今日はもう寝ようと、風呂に入って、布団を二組敷いた。俺が寝ている間に吹雪が帰ってきてもすぐ眠れるように。
思えばこういう風にちゃんとした"生活"をしたのは本当に久しぶりだ。大学だと適当にカップ麺を食べてシャワーを浴び、ソファーで寝るのが当たり前だった。
改めて自分で"生活"をしてみると意外と大変何だと感じる。ひとりだと尚更だ。でもそれは今まで吹雪がしてきた事だ。吹雪はずっと、この決して広くない部屋でひとりで俺の帰りを待っていたんだ。
疲れた体を布団に横たえる。

証拠に。使っていないはずの俺の布団は清潔で、かといって生活感がない訳ではなく、きっといつ帰ってきても良いように毎晩敷いて、たまに日に干したりしていたんだろう。容易に想像ができた。

「…………吹雪。」

たまらなくなって愛しい名前を口に出してみる。当たり前だが返事はない。


『豪炎寺くん暖かーい』
『ちゃんと風呂浸かったのか?』
『入ったよー。もともと体温低いんだよ。』
『そうか、じゃあ暖めてやらないとな。』
『うん……え?ちょっとどこさわって』
『ヤれば暖まるだろ。』
『!そ、そういう暖ためるじゃなくて…ぁあ!』


寒い日は、片方の布団に抱き合って入ってたな…。
昔の事のようで、最近の事だ。

吹雪に会いたい。

自分でほったらかしていた癖にいざ遠退けば会いたいと思う気持ちが押さえきれない。

『僕のこと好き?』
最後に聞いたこの言葉が耳から離れない。あの時すぐに返事を返していたらこんな状況にならなかったんだろうか…

吹雪のことになると途端にネガティブになってしまうのは俺の悪い癖だ。後ろ向きになっては吹雪に怒られて、前を向く。

本当はただ待っているだけじゃダメなのかもしれない。俺から行動しないとなんだ。

吹雪が行く場所として俺が知っているのは風丸の家か猫カフェ、北海道あたりか。

……北海道。
もしかして、北海道に帰った…?
あり得なくはない。


微睡みの中で吹雪の枕を抱きしめながら夢中で考えた。いつ旅立ったのかや今俺が行くべきなのかも…

そしていつのまにか眠りについていた俺に朝、風丸から電話がかかってきた。

それは必死になっていた俺を凍りつかせる内容だった。

「豪炎寺、落ち着いて聞いてくれ………吹雪が、事故にあった。」


俺は夜中鳴っていたサイレンを思い出していた。





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