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居間にも寝室にも台所にもトイレにも風呂にも、吹雪の姿がない。鍵が掛かっていたから初めは買い物に出ているんだと思って、適当に時間を潰していた。
でも夜になっても吹雪は帰って来なかった。心配になって携帯に電話をかけてみたが繋がらない。
冷蔵庫には野菜や生肉が入っているあたり家を空けている訳ではないみたいだ。
けど連絡や置き手紙のひとつもしないでいなくなるなんて何考えてるんだ。吹雪の行動の意図が読み取れず疲労感だけが募る。
ダメだ。
分からない。
やるせなくなって居間にゴロンと横になる。
チクタクと一定な時計の音が聞こえる。
そう言えば、最後に吹雪に会ったのはいつだっただろう…。研修や実験が重なり何だかんだ1ヶ月近く顔を見ていない気がする。
「……ん?」
寝転んだまま部屋を見渡すと、タンスの脇に並べてあるアルバムが気になった。手を伸ばして取ってみると少し埃を被っていた。
『雷門サッカー部・1』
表紙にかかれた文字は多分吹雪のものだ。
パラッと捲って見た。
各ページの端に小さく吹雪のコメントが入っている。
これは、まだ俺がキャラバンにいなかった頃のだな。
これは雷門中に帰ってきたとき。
これは皆で円堂の家に泊まったとき。
これは入院している仲間を見舞いに行ったとき。
…気がつけば時を感じるのも忘れて夢中になって写真を眺めていた。
でも一冊見終わって、何か物足りない気がした。残っていた二冊を取ってパラパラと捲る。
…やっぱり。
思った通りだ。
『雷門サッカー部・2』にも『FFI』にも吹雪が写っている写真が一枚もない。
吹雪の解説がついていたから気にならなかったが、閉じた後の違和感。いるはずの人がいない。
今だって頭の中では当たり前に隣に吹雪がいて、二人でアルバムを見ていた気にさえなるのに…
………吹雪。
時計は午後11時を指している。
ここには帰って来ないんじゃないか、と嫌な予感がよぎる。それどころかもう俺のもとには帰ってこないような気がしている。
幼かった自身や仲間の写真を見て思う。俺はなんてことをしていたんだろうと。
過去を思い出して今に至る。
一番大切にしてやらなきゃいけなかったのに、そばにいることが当たり前になってそれを忘れて
もっと愛してやりたかった。好きだよって伝えたい。目一杯抱き締めてやりたい。
でも今その手を掴み戻す力が俺にあるだろうか…
横になるうちに家にいる安心感で勝手に瞼が閉じてきてしまう。
あぁ、目が覚めたら吹雪が帰って来ているといい。いや、これは悪い夢だったら。瞳を閉じたら、寝ている俺が目覚めてくれたらいいのに。
……吹雪。
お前がいないと寂しいよ。
反省してる。だから戻って来てくれ。
言いたいことはたくさんある
でもいま一番伝えたいのは
「愛してる。」
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