こいびと1

「僕の事好き?」

愛情表現が下手な俺に吹雪がいつも問いかけてくる事だった。もちろん好きだ。愛してる。
なのに年を重ねるごとに返事はそっけなくなっていってしまった。別に愛情が減ったわけじゃない。寧ろどんどん増えていっていたのに。

最初のうちは「好きだ。」とか「愛してるよ。」とか当たり前の様に返していた。吹雪もその応えに嬉しそうに微笑んでいたし、俺もそのさりげないやり取りが好きだった。

だが時が経って、吹雪が隣にいることが当たり前になって、俺は勝手にその環境がずっと続くんだと吹雪の優しさに甘えていた。吹雪も同じように俺を思ってくれていると確信していたから。


あの日々の事を思い返すと、俺は何て酷い男だったんだと情けなくなる。

医学部に合格した俺は、吹雪と小さなアパートで同棲を始めた。とくに進学を考えていなかった吹雪に「家にいてくれればいい。」と見えない鎖をつけたのは俺だった。
もちろん吹雪が納得するわけもなく、家賃を払うためにアルバイトで書店員の仕事を始めていた。そんな所も愛しくて。

家に帰れば俺を待つ恋人がいる。俺にとってそれは感動する出来事で、ただいまって言えばおかえりって返ってくる。俺を喜ばせようと料理の腕を磨く姿や俺のYシャツにアイロンをかける姿。その全てに幸せを感じていた。


なのに四年を過ぎた頃から研修やら研究で忙しくなり、俺はほとんどの生活を大学で過ごして家に帰らなくなっていた。たまに帰っても疲れから寝ていることが多い。吹雪はそんな俺を気遣って食べやすい物を作ってくれたり、鞄のなかにそっと手作りの弁当を入れてくれたりもした。

でも俺は同じ研究をする先輩との関係が拗れると厄介だと、誘われた合コンに何回か参加したり精神的に荒んでいった。

その頃からだと思う。吹雪は俺に好きかどうか聞かなくなっていた。でもその時の俺はそれに気づかず毎日をせかせかと過ごしていたに違いない。

俺のいない家で、ひとりで帰りを待つ吹雪の気持ちを考えていなかった。


だからある日、大学にいた俺に電話で吹雪から「僕の事好き?」と聞かれたとき「ああ。悪いが今忙しいから、そういうのは帰ったらにしてくれ。」と言ってしまった。
疲労からイライラしていたとはいえ、なんて事を言ってしまったんだと激しく後悔してる。

すぐに、謝ろうとした。電話じゃ顔が見えなくて感情が読めないから、会って今までの事も話し合おうとした。


だけどすぐにと言っても実際の「直ぐに」は二、三日たってからだった。

いつもどおり吹雪は家にいるだろうと思っていた。けど、遅すぎたんだ。


部屋の扉を開けたとき、そこに吹雪の姿はなかった。



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