07

「俺ずっと、豪炎寺さんだけを見て来ました。好きです。豪炎寺さん。」

これは、どういうことだ。
腕を回している相手は一番弟子だと思っていたやつで、そんな感情を秘めているとは誰も気づかなかっただろう。
なるべく相手を刺激しないようされるがままになって耳だけ傾ける。たが視線は、外で練習に励む吹雪を見ている。

「なのに豪炎寺さんは、…っ…吹雪さんの事しか見てなくて」

「辛かったんです。」と

俺も、だ。俺を見てくれない吹雪に苛立っていた。そしていつしかその感情のせいで吹雪が嫌いだと思い込んでいた。

「虎丸。…ありがとう。」

腕をやんわり外し向き直る。

「お前は強い。」
「……え?」
「俺は弱いから、自分と素直に向き合えずに……大切な人をずっと傷つけていた。」

この気持ちが間違っていると決めつけて、自分に嘘をついた。吹雪を見てしまうと閉じ込めていた気持ちが溢れそうで遠ざけた。俺は馬鹿だ。だが同時に、

「アイツを幸せに出来るのは、俺しかいないんだ。」
「……豪炎寺さん。」

たとえ自惚れでも良い…。
ひとりは嫌だと言った吹雪。俺には関係ないと叫んだ吹雪。俺が受け入れなかっただけで、いつも俺に本気でぶつかってきた。俺が自分の回りに勝手に壁を作って見ていなかっただけだ。

「もっと早く気づいていたらって思ってる。」

ちらと外を見るとまだヨタヨタと練習を続けている吹雪が見える。きっと吹雪はいま誰かに助けてほしいはずなんだ。円堂には毎度言われているが本当に、俺は人を待たせる傾向があるらしいな。

「……ならもう」
「でも、今からでも遅くない。」
「!……。」

俺の固い意志に叶わないと感じたのか、虎丸は何も言わず俯く。

「気持ちは嬉しい。ありがとう。」

そして
ごめんな。と言おうとしたときパシンッと頬を叩かれ痛みが走る。

「謝らないで下さい!……俺は諦めてないですよ。今のは、俺の勇気を忘れさせないためです。…それに、フラれたらこうするのがセオリーなんですよ!」

虎丸はいつもの様にヘヘンッと笑うと「ありがとうございました。」と頭を下げた。普段見せないその素直な姿にどこからともなく笑みが浮いてきた。

「……明日、いつも通りいこうな。」
「はい!」

頭を上げた虎丸の目は、いつもの輝きが戻っていた。

「吹雪さん、よく朝まで練習してるんです。」
「そうか。」
「は、早く行ってあげて下さい。」
「あぁ、ありがとう。虎丸。」


虎丸が部屋へ入るのを見届けると肩の力がすーと抜ける感じがした。俺はまた誰かを傷つけてしまったのか…。人は傷つくほど成長するというけど、傷つけてしまった方に自覚がある時は、その側も成長したということになるのか。


また窓から吹雪を確認しようとしたが、姿が見当たらない。窓を開け辺りを見回すが、いない…

焦って再度視線をグラウンドに戻す。すると、ボール籠の影がやけに長いような…と思って直ぐに気づいた。

「吹雪!」

小さいから気づかなかったが、片腕でボール籠に掴まり膝をついてしゃがんでいる。思わず叫んだが聞こえていないようで、地面を向いたまま肩ではぁはぁと息をしている。片肩部分がやけに黒く見えるのは血だと昼間の出来事から直感した。


吹雪……吹雪!…。

すぐに、寝間着だと言うことも忘れて廊下を走る。


そうだ。さんざん傷つけて今更かと思うかもしれないがやっと気づいたんだ。俺は吹雪を救いたい。

「吹雪…!」




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