06



ふと目が覚めた。外はまだ暗く星の光だけが地上を照らしているのがカーテンの隙間から見えた。吹雪は帰ってきただろうか…

正直それでなかなか寝付けなかった。吹雪の携帯に届いていたあのメール。あれはストーカーか何かだろう。事実、俺や風丸だってファンからストーカーじみた真似をされたことはあるが、吹雪のはそれとはまた違う。メールを見る限り、まるで何かで脅迫されているような。

でも、なんで相談してこないんだ。どうして誰も頼らない。



……だめだ。
頭で考えるだけじゃ何も解決しない。明日直接聞いてみるか。完全に覚めた頭を起こし、気を晴らすために夜の散歩でもしようと廊下に出た。


だが何気なく窓から見えたグラウンドにある人影を見つけて立ち止まった。そこにいたのは吹雪だった。


時間はもう2時近くだろうが、吹雪はグラウンドにひとりボール籠を出してひたすらシュートしていた。薄い暗闇のなかゴールに向かいボールを蹴っていた。

その時光景を見たとき俺の中の何かが壊れた。

吹雪は中途半端なサッカーなんてしていなかった。
無断で休んでも実力が向上していたのは、きっと今みたいな練習を俺達が知らないところでずっとしていたんだ。

なのに俺は勝手にやる気がないんだと思い込んで…。
吹雪は不真面目だったわけじゃない。だけど、人を頼られない、俺を見ようとしない態度にひとりで腹をたてていたんだ。こんな感情初めてだ。

俺を頼ってこない吹雪にイラついている。

なんでなんだ。
吹雪が哀しい事や寂しい思いをしているのを何とかしてやりたいと思ってしまう。だが実際、吹雪を助けた所で吹雪が俺に何か特別な感情を持ってくれるとは限らない。…そうだ。俺は吹雪の中で特別な場所にいたかったのだろうか。

そこまで考えて俺は吹雪に対する感情に答えを出した。俺は吹雪が嫌いだったんじゃない。
むしろ俺は吹雪を……

「豪炎寺さん。」

いきなり呼ばれ驚く。後ろを見れば見慣れたやつが立っていた。

「……虎丸?」

自分との話に夢中になるあまり人の気配に気づかなかった。
虎丸はいつもと変わらない声色で、でも目や表情は冷たかった。

「吹雪さんの所に行くつもりですか?」
「!…」

いきなり図星を突かれ言葉に詰まる。なんでバレたんだろう。もしかして虎丸は吹雪がこんな風に遅くまで練習しているのを知っていたのか…?

「もう吹雪さんにかまうのは止めた方がいいです。」

その言葉にムッときた。眉間にシワが寄るのがわかる
どいつもこいつも関わるな関わるなって…

「なぜだ。」

今の吹雪を放っておいても何も解決しないことは明白だ。

「豪炎寺さんのためになりません。…それに吹雪さんも、いってたじゃないですか。関係ないって。」
「!…お前、」

聞いてたのか…?
医務室での事を。


問えば気まずそうに視線をそらされる。
俺も何故かいたたまれなくなり視線を外にずらす。窓から見た吹雪はまだ練習を続けている。が、どこか辛そうでフォームもいつもよりぎこちない。何かを庇うように普段の柔軟性を上手く生かしきれないような動きをしている。
加えてたまにフラッとする時も見られ、早く寝せた方がいいと直感した。

「虎丸。すまない、また明日話そう。」
「あ…。」

虎丸が何を言いたかったのかいまいち分からなかったが、今は吹雪に伝えなければならない事がある。

背を向け吹雪の元へ行こうとしたとき、不意に後ろから抱きしめられた。

「………虎丸?」

どうしていま俺が抱き締められているのか、行動の意味が理解できない。俺は吹雪を抱きしめてやらないといけないのに。
確かめようと名前を呼べば驚くべき返事が来た。

「俺、豪炎寺さんの事が好きなんです。」




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