▼ 名前で呼んで。
吹雪に名前で呼ばれたい。いや、呼ばれたいと言うよりは言わせたいに近いか。
「俺の名前は?」
本練習が始まる前の水分補給の時間を見計らって、吹雪に近づいた。ここ最近何度かしている質問だ。
「…豪炎寺くん。」
「それは名字だ。名前は?」
ここまでは毎回のように同じ回答が続く。が、いつも途中ではぐらかされる。今日は逃がさないぞ。
じりじりと壁に追い詰める。
吹雪はあたふたしながらも、逃げようとはしない…。そんな態度にひょっとしたら吹雪も実は呼びたいんじゃないかと勝手に良い方に捉えてしまう。
「……し//」
お。今日は折れそうだ。
後一息ってとこか。
俯く顔を覗き込むと吹雪もちょっと顔を上げて、お互いの目が合う。赤くなった顔で見上げられるのは結構クる。今すぐ抱きしめてキスしたいが、ここは我慢だ。
ここは皆がいる。事情を知っている奴もいるがここで事を起こしたら俺は一生猛獣扱いされるに違いない。まったく、愛を表現するのに場所も時間も関係ないよな。俺は外国肌なのかもしれない。いや、吹雪に対してこうならないやつはいない。だってこんなに可愛いんだぞ。笑った顔は勿論だが困った顔だって最上級だ。だからつい苛めたくなる。
「し?」
「……しゅー//」
もしかして、今日はいけるんじゃないか?もう呼ばれる事よりも赤面して頑張る吹雪に夢中だった。
あと少し!その時、
「ふぶきくーん!」
っち、、誰だ!
「あ、ヒロトくん」
助かったーと言うように吹雪が基山に駆け寄る。なんか面白くない。
基山ヒロト。俺の宿敵だ。まぁ俺が一方的にライバル視しているだけなんだが……最近妙に吹雪と仲が良すぎると思う。たとえば、昼は練習上FW組で食べるが、そうでない朝食や夕食は吹雪と同じテーブルで取ろうとしているのに何故かコイツがちらつく。風呂もそうだ。俺が誘おうと吹雪の部屋に行ったらもう基山と行ってきていたり。要注意人物だ。
吹雪も吹雪でもっと自覚してほしい、、、
そんな事を思われているとは知らず二人が話し始める。
「今日は俺と組む日だよね?」
「うん!」
「じゃ、行こっか」
「うん……あ、豪炎寺くん。ごめん、またね//」
ひらひらと手を振り二人が歩いていく。入れ替わりのように虎丸が俺を呼びに来て一緒にグラウンドへ歩く。
その途中にも目線は自然と二人にそそがれる。
今日もダメだったか、、思わぬ邪魔が入ったな。しかもなんだか吹雪を取られたようでかなりモヤモヤだ。
二人の背中をぼーっと見つめる。
俺もDFになったら吹雪と……………!?
気づけば吹雪の腰にさりげなく基山の手が回されている。吹雪は気にしてないようだ。
基山……ゆるさん
平常心を保っていたつもりだが、後から聞いた話その日の俺の炎はいつも以上に燃えたぎっていたそうだ。
吹雪には後で基山についての質問が山ほどある。独占欲が強い俺を吹雪は呆れるだろうか…。いや、吹雪もあれで意外と独占欲強いからな、案外お互いに妬いてたりするのかもしれないな。
なんて練習が終わって部屋でくつろいでいたら控えめなノックが聞こえた。
「豪炎寺くん。入ってもいい?」
吹雪だ。
「………。」
別に聞こえなかった訳じゃない。返事はわざと返さなかった。
「豪炎寺くん?」
「…………。」
相当ガキだと思う。
返事を返さなくても呼んでくれることを嬉しいと感じるなんて。
「豪炎寺くん…。」
返事が返ってこない事で俺が怒っていると思ったのか、声がシュンと小さくなった。
吹雪、怒ってないぞ。
ただお前が俺を求めてくれるかが不安で試してしまうんだ。
「豪炎寺くん……あの、ね。」
声でオロオロしているのが分かる。さすがにもう開けてやろうかと思った時
「一回しか言わないから、ちゃんと聞いてて、ね。」
ドアノブを握ったところで止まり、ドアに耳を傾ける。
しばらく静寂が続き、ぽつりと
「………しゅーや、くん//」
聞いた瞬間、ぱぁっと俺の心に光が指したような感じがした。
「わあ!」
バッとドアを開け抱きしめる。驚いた吹雪の顔は真っ赤だ。
可愛い。可愛い//俺の吹雪。
髪に顔を埋め腕に力を込める。
色々なモヤモヤはあるが今はこの時間が続けばいいと思う。
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その後、吹雪も豪炎寺にモヤモヤしていたと打ち明けてさらにラブラブな時間を過ごしましたとさ(*´∀`)
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