俺を惑わす甘い声



ついさきほど、衝撃的な事実を知った。

なんと、吹雪がエロゲー声優だったんだ。それも女の子役というとんでもびっくりな話だった。


何でその事を知ってしまったかは話せば長くなるんだが、目金がインフルエンザにかかって大好きなゲームのイベントに行けなくなってしまった事が発端だった。

悩んだ末目金は壁山に代行を頼んだ、だが壁山もインフルエンザに感染した。そして壁山は鬼道に代行を頼んだ。しかし鬼道はインフルエンザにかかってしまった。それで俺に回って来たわけだ。
簡単な図で示せば。目金→壁山→鬼道→俺
といった具合だな。

そういうイベントに今まで興味関心が無かったから頼まれたときは断ろうと思ったのだが、なんとサッカー部のほぼ全員。さらには学校自体がインフルエンザで休校になった。あの円堂でさえやられてしまったのだからもう誰も太刀打ち出来ないな。

まぁそんなわけで、俺はひとりでそのイベントに行くことになった訳だ。


そして事前に渡されていた「目金がやりたかったことリスト」を着々とこなしていき、最後にイベント終了後の声優との握手会に参加して任務完了のはずだった。


「はい、次の方。…後ろの方押さないでくださーい。」

案内係がファンを誘導する声が響く。まさかただ手を握るだけで一時間も並ぶなんてな…。目金、精神面では意外に強いんじゃないか?人から頼まれていなければ俺は絶対並ばないだろう。

「はい。次の方どうぞ。」

やっと番が回ってきた。
もうこれ以上こんな人混みにいるのはごめんだ。
このゲームのヒロイン役だろう三人の声優と順に握手とサイン色紙をもらう。それで終わる。
我ながら無愛想な態度で二人目までの分をゲットし、残る一人になった時だ。

「参加ありがとうございましたっ」

この時だった。
やけに聞き覚えのある甘ったる声がしたと思って顔を上げたら…。

「次回もぜひ参加して……」
「…吹雪?」
「…え……豪炎寺くん!?」

吹雪だった。
もちろん驚いたが、吹雪もかなり驚いたようであからさまに「どうしよう、見つかった。」と表情に出ていた。
だがそれも束の間、すぐに元の営業スマイルに戻ると差し出されていた俺の手を握ってきた。プロ根性ってきっとこう言う事だと思う。

「次回もまた参加してくださいねっ」

握ってきた吹雪の手は思っていたよりも白くてすべすべしていた。吹雪が転校してきてから暫く経つが、初めて身体に触れた気がする。俺の心は握手と同時にすっかり吹雪に握られてしまっていた。

その後の事はよく覚えていない。ファンサービスで一緒に写真を撮った気もするが、俺は放心状態のままテクテクと会場を出て、今は近くの公園のベンチに座りボーッと空を眺めている。

ヒロイン役の制服を着ていたと言うことはきっと、いや絶対に吹雪は"攻略される"キャラクターなんだろう。しかもエロゲー。
確かに吹雪の声は可愛いと思う。いや声だけじゃなく見た目や性格なんかもとびきり可愛いが…。


吹雪は7月の初めに北海道から転校してきたんだ。クラスは違ったが部活に新しいメンバーとして紹介された時は目を引かれた。まさに雪を象徴するかのような白い肌。柔らかく跳ねた髪。とろりとしたタレ目。
そして柔らかい物腰が部員の誰もを惹き付けた。だが直接的な関係がある訳じゃないし俺はコミュニケーションが苦手だ。かといって全く話した事がない訳じゃなかったが、吹雪は特に仲の良い染岡といる時がほとんどだった。
だからなのか、今みたいな俺しか知らないような事があると嬉しく感じる。

そこまで考えて俺はハッとした。

俺はいつの間にかこんなに吹雪が好きだったのか…。

それに気づいた瞬間に俺はいてもたってもいられなくなり、ベンチから立ち上がるとゲーム屋で吹雪が出演している作品を即買いした。もちろんこれから出るものも初回限定を予約してきた。吹雪からもらったサイン色紙には"雪原 六花"と書かれていた。吹雪の芸名だろう。

休校が解けた時、目金に会ってもこの事は黙っていよう。
次吹雪に会うのがとても楽しみになった。



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