鬼道有人の近状報告



世界の場に立って、はやり国の代表選手となるとレベルが違うと感じる。俺ももっとゲームメイクのテクニックをつけなければ…。
二年目のFFI予選を前に、俺達は北海道に来ていた。

本戦では勝ち進めばロシアとの交戦が待っていたし、次にぶつかる韓国に氷系のプレーヤーが多いという情報から、一週間あまりこの地域で練習することになったのだ。
もちろん代表選手のなかには吹雪も含まれていた。そして民泊を希望した俺達に「僕の家でよければ。」と提供してくれたのだった。
監督とマネージャーはホテルを取ったらしく、選手20人弱の合宿になった。

吹雪は小さい時に家族を亡くして、今は家にひとり暮らしだと言った。実際行ってみたら案外大きく、近くに親族が住んでいるとはいえこんな立派な一軒家にひとりは寂しいだろうなと思った。

「もう自分の部屋とリビングくらいしか使ってないんだけどね。」

二階の両親の寝室だった場所と吹雪の部屋、一階の座敷を使って寝ることになった。座敷にある仏壇には家族の写真が飾ってあって、改めて吹雪の過去を思い起こさせた。

豪炎寺は今までに何回か来たことがあるらしく、夕飯の買い出しを率先してやっていたし、キッチンの調味料の場所なんかも把握しているようだ。
豪炎寺、吹雪、飛鷹と不動で夕飯作りをしている間、各々テレビを見たり漫画を読んだりくつろいでいる。思えば近頃吹雪が不動といるところを見かける。意外と仲が良いのかもしれないな。豪炎寺は気にしているようだが…。

「鬼道、明日の練習メニュー考えようぜ!」
「あぁ。」

円堂に呼ばれ、俺は席を後にする。豪炎寺の隣に立ち周りとなにやら楽しげに話しながら料理をする吹雪は、いつもより幸せそうに笑っていた。

きっと吹雪はひとりじゃないと思いつつも少しは孤独を感じていたんじゃないか…?
そう思っていた矢先にそれを見てしまった。いや、聞いてしまった。


皆が寝入った深夜、トイレを済ませ喉が渇いたとリビングに水を飲みに行こうと座敷を通りかかったとき
障子戸の隙間から仏壇の前に吹雪がいるのが見えたのだ。

ハッとして寝ていた豪炎寺と円堂を起こした。


「なんだよ鬼道ー…。」

「何かあったのか?」

まだ寝ぼけ眼を擦る二人にそっと障子戸の隙間を指差す。そこからは小暮と壁山と立向井、虎丸が雑魚寝する中で仏壇の前に正座する吹雪の姿が見えた。

「?…吹雪?」

三人で隙間から見える後ろ姿に、声に耳を傾ける。


「………最近行けなくてごめんね。」

どうやら仏壇に飾ってある家族の写真に話しかけているようだ。どこからか入ってきた風がサラッと髪を撫でた。

「まだ報告してなかったよね………僕、今年も代表に選ばれたんだよ。今日は皆が家に泊まりに来てくれてとっても賑やかなんだ。」

「皆すごくレベルが上がっててね、僕も頑張らないと。」

「あ、この間豪炎寺くんと二人で新しい必殺技考えたんだ。僕、上手く会わせられるかな…?」

他愛もないひとり会話だが、普段自分の話をしない吹雪だ。こんな風に嬉しそうに誰かに語りかけていることは稀だ。


一通り報告をしたところで、ふぅ。とため息をつく音がした。そして先ほどよりも静かに話始めた。

「……今まで話したことなかったけど………僕ね、あの事故からずっとひとりだよね。ううん、"ひとり"じゃないって事は分かってる。…だけどこの家にいるとね、やっぱり寂しくなる時があるんだ。」

きっとこれが吹雪の本音だろう。
吹雪の声は比較的明るいが、少し切なく聞こえる時がある。それはやはり一度大きな寂しさを経験した事があるからなのだろうか…

「でもね。最近……っていうかキャラバンの頃からだったんだけど。……皆といるとね、まるで大きな家族が出来たように感じるんだ。」


「……ふぶき…。」

思わず豪炎寺が声をもらす。

「…だからね、三人にお願いがあるんだ。父さんや母さん、アツヤも勿論家族な事に変わりはないよ。けどね、…いまの僕の"家族"、……チームの皆の事も見守ってほしいんだ。」

正座する吹雪の後ろはとても小さかったが、心はしっかりしていた。俺が思っていたよりもずっと…
あの小さい身体に、どれくらいの悲しみや寂しさを背負ってきたんだろうか。

「うぅ…ふぶ、き…」
「?」

隣を見れば、ずびっと鼻を啜りながら円堂が声を堪えていた。
吹雪に気づかれてしまう。と声を駆けようとしたときはもう遅かった。

「ふぶきぃーー!」
「!?え、キャプテン!?」

円堂はバッと障子を開けると吹雪に向かって突進していった。

「ふぶきぃ…俺も吹雪のこと家族と同じくらいに大好きだぞ…!!」
「キャプテン…??」

突然すぎる登場に驚きながらも、泣きながら抱きつく円堂の背中を吹雪の手が優しく擦る。

「円堂、静かにしろ。それと、鼻水どうにかしろ。」
「あ、豪炎寺くん…鬼道くんも。…どうしたの?」
「ちょうど通りかかってな、悪いとは思ったが…」

吹雪はいきなりの事にも気を悪くした様子はなかった。

「ふぶきぃ…」
「キャプテン、どうして泣いてるんだい?」
「だってさぁ、吹雪がこんなに俺達のこと思ってるなんてしらなくてさ、俺うれしくて…」
「え?あはは、恥ずかしいな…//」

なおしがみつく円堂を支えながら、俺達を見回して吹雪は言った。

「僕ね、皆と同じ時間を過ごせて本当に幸せだよ。…サッカー続けてて、よかった。」
「あぁ。」
「俺も、吹雪に出会えてよかったよ。」
「うぉおお!やっぱサッカーってすげーよな!」
「円堂うるさい」
「ふふ。…でも、恥ずかしいから皆には今の内緒にしてね。」

出会ってしばらく経つがこんな風に気恥ずかしそうに笑う顔や優しく目を細める吹雪の表情を、俺は初めて見た。

「吹雪、これからもよろしくなっ!」
「うん。今年も優勝しようね。」

年を重ねる毎に仲間の新しい一面を見つける。だが中でも今日の出来事は大きいだろう。
前よりも吹雪を近くに感じた日だった。

ゲームメイクや技を考えるのももちろん大切だが、それ以上に仲間の事を考える気持ちを吹雪は思い出させてくれた。
それはきっと吹雪だから出来たことだろう。日々感謝だな。




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