▼ ちょっとだけ素直な日
僕は素直じゃない。
分かってるんだ、でも直せない。いつも天の邪鬼な事言ってばかりで、周りからはひねくれた子だと思われているかもしれない。
そんな中で、僕を好きにってくれた人がいた。
それが豪炎寺修也くん。
曲がっている僕の心に唯一真っ直ぐにぶつかって来る人。
最初は何だか話しづらくて苦手だった。ううん。豪炎寺くんじゃなくても話すのは苦手。
でも彼はどこか特別に見えたから、傷つけちゃったかな?って落ち込んだり焦ったりする時もたくさんあった。けど豪炎寺くんはいつも変わらない態度で僕に話しかけてきた。
そして時が過ぎて僕らは付き合った。
豪炎寺くんはいつも天の邪鬼な僕をどうやったら素直に出来るのかを考えている。
付き合って五年たっても僕達の関係は続いた。
僕は嬉しかった。日を重ねる毎に豪炎寺くんを好きになる。
優しい所、几帳面に見えて意外と抜けてる所、叱ってくれる所。
そして最近になって分かった一面もあるんだ。
「今日の映画面白かったねー。」
「あぁ。最後のシーンは感動したな。吹雪、泣いてただろ。」
「な、泣いてないよ!」
ある日豪炎寺くんとデートした時。
今まで豪炎寺くんが僕を素直にさせようとするのは、ひねくれているのを僕の"間違っている所"だからだと思ってたんだ。
「…………。」
「…ん?…どうしたの?」
いきなり立ち止まるから、僕も立ち止まって振り向く。少しの間見つめ合って、豪炎寺くんはいきなり胸を押さえてしゃがみこんだ。
「!?…だ、大丈夫!?」
僕は慌てて駆け寄る。
「……もぅ、だめだ…。」
「え…ちょっと、しっかりして!」
「…………手。」
豪炎寺くんは背中をさする僕に手を出してきて
「…………え?」
「手、握ってくれないと死ぬ。」
「………………!?/////ばっかじゃないの!//」
驚く言葉に照れながら渇を入れる。本当は嬉しかったけど、心配もしたから。それが勝った。
でも実はこんないたずらされるのは初めてじゃないんだ。もう過去に何度も経験してる。なのに引っ掛かっちゃう僕も、意外と抜けてるところあるのかな…。
「ほら…早く…。」
……しょうがないなぁ…。
差し出された手に僕のを重ねる。
すると豪炎寺くんは何もなかったようにスッと立ち上がって歩き出した。もぅ、意外と甘えん坊さんなんだから//
手を繋いだまま見慣れた住宅街を歩く。ここは人が住んでいる割りに人通りが少ない。
「………吹雪。」
少しの間何か考えていた様子だった豪炎寺くんが話しかけてきた。その時握っていた手にすこし力が入った気がした。
「なに?」
「好きだ。」
いきなり、何かと思えば…!
なんでさらりと言えるんだろう。もし周りに人がいて聞こえたらどうするんだよ。
「吹雪は?」
「……んー//…」
不機嫌な声色を出してもダメだった。
「好きだ。」
「…う、うるさい//」
「好きだ。」
「うるさい//しつこい」
なに?今日なんなの…
「好きだ。」
「うるさい//」
「結婚しよう。」
「うるさ……え?…。」
はっとして豪炎寺くんの顔を見る。いま、なんて…
豪炎寺くんは僕を自分に向合うようにして、繋いだ手をそっと持ち上げた。
「吹雪。…これからもずっと、隣にいてくれるか?」
「…………//」
なにこれ、何のサプライズ?
本当いきなりだよ。
嬉しくないわけじゃないけど、………本当は心が舞い上がって今にもスキップしそうな勢い。でも、それにしてもいきなり過ぎ。
「ふぶき?」
「……………//」
頭を普段の10倍回転させて考えた。もちろん素直じゃない僕とも話して。
結果、どうして?って思う自分もたくさんいるけど、不器用な豪炎寺くんだから許してあげることにした。
豪炎寺くんはしばらく黙ったまま俯く僕の顔を覗き込んでくる。赤くなった顔を見られるのが嫌で、思わず抱きついちゃった。肩に顔を埋めると微かに豪炎寺くんの匂いがする。
「……げる」
「ん?」
「ずっとそばにいてあげる//」
「…………はは//」
よかったぁ。と豪炎寺くんが僕を強く抱きしめる。
もしかして豪炎寺くん、緊張してた……?
僕の髪に顔をつけて微笑む姿にこっちまで幸せ色。
「…でも僕、料理も下手だし家事出来ないし…。素直じゃないから、きっといつか飽きがきちゃうかもよ?」
口からは思ったのと違う言葉が出てくる。
やっぱり僕、ひねくれた子だ。恥ずかしかっただけなんだけど……雰囲気を壊してしまったかも、とシュンとなりかけた時
「あぁ。料理や家事はこれから二人で何とかしよう。それに吹雪が素直じゃない分、俺が好きだって言うから。大丈夫だ。」
「……?」
「だから、そんなお前も、愛してるって事だ…//」
「………!」
それを聞いてふわぁっと心が軽くなった気がした。僕の生き方が間違ってなかったって、そんな僕が好きだって肯定してくれたから。
それから、なんだか涙が出てきちゃって更に顔を見せられなくなった。
「ごう、えんじくん…」
「ん?//」
ちょっと照れた豪炎寺くんの暖かくて優しい手は、僕の頭を優しく撫でてくれる。
僕は思いきって顔を上げ、豪炎寺くんに言った。
「僕ね、豪炎寺くんのこと大好きだよっ!」
君は優しい。
けどね、僕だって大好きなんだから。
自分が思う目一杯の笑顔で伝えた。
きっと泣いてたせいで目も鼻も赤くて、頬も染まってたかも知れないけど…、とにかく伝えたかった。
今日新しく見つけた一面は
きっとどんなに時が過ぎても、天の邪鬼な僕を好きでいてくれる所。
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