▼ だいきらい 番外編
きらいだ。きらいだ。
だいっきらいだ。
意味が分からない。
最近、ごうえんじ?って呼ばれてるあの男子につけられている。いつもって訳じゃない。けど帰るときは必ずついてくる。一緒に帰ろうと誘っても僕が断るのを知ってか知らずか、横に並ぶことはない。
今だって、僕の五メートルくらい後ろをテクテクとただついてくる。
気になる訳じゃない。だって人になんて興味ないし。会って初めての日にいきなりキスしてきたんだよ!?
信じられない男だ。僕の中での好感度は最低。
「ねぇ、ついて来ないでって言ってるじゃないか。」
立ち止まって、振り返ってそう言うけど
「別につけてないぞ。」
嘘だ。
僕が寄り道しようとすれば口出してくるくせに。
彼に僕の周りを突き放す態度は通じない様で、なかなか離れてくれない。
僕はまた歩き出す。
彼もまた歩き出す。
つけているって証拠は他にもある。
彼は電車登校じゃないんだ。なのに駅まで来るって、彼にとってなにも利益がない。しかも僕が駅に入るといつのまにかいなくなってる。
駅に着いて振り向けば、ほら。もういない。
向かいの大通りの人混みの中に彼らしき人を見つけた。方角的にきっと学校の方に戻るんだ。
なんでわざわざついてくるんだ。分かってるの?そう言うの世間でストーカーって呼ばれてるんだよ。
彼は今まで会った人の中で一番しつこくて、意味分からない人だ。
改札を過ぎてホームで電車を待っていると、いきなりブワッと風が吹き抜けて震える。そう言えば、転校して来てもう三ヶ月か経つのか…。
冬は嫌いだ。雪も嫌い。
僕の大事な物を全部奪っていくから。
昨日だった。
「吹雪。」
駅まで着いた所でいきなり彼が話しかけてきたんだ。
「なに?」
怪訝そうに振り向くけど彼の表情は変わらない。
「俺、明日から三日間いないんだ。」
「………だから?」
「いや。……気をつけて帰れよ。」
言うと、じゃあな。と身体を翻して元来た道を走っていった。
…やっぱりつけてたんじゃないか。
後ろから見た彼の姿には赤色チェックのマフラーが風でなびいている。
僕は追いかける訳もなく、改札に向かった。
そして夜が明けた。
言った通り彼は学校にいなかった。
いや。探した訳じゃないけど、きっとそうだと思う。彼は嘘をつくような人に見えない。
けどそんな事を考えてる暇はなかった。いつも僕に手を出してくる奴らに絡まれる率がいつもよりも高かったんだ。
お陰で右頬に一発、腹に二発の痣が出来た。痛かったけど、やり返す気は起きなかった。僕まで手を上げたら、目の前の奴等と同等の生き物になってしまう。
この人たちは、皆から疎まれている僕が憂さ晴らしに丁度良いからチョッカイ出してくるだけなんだ。
……けど、実際そんなのどうでもいい。考えるのも疲れる。
強いて言うなら
キスされた日から、顔に傷をつけないよう注意していたのを破られた事だけが心残りだ。
でも今日、その傷を気にする人はいない。
帰り道、僕にとってのびのび帰れて良いはずなのに、いつもよりも後ろが気になった。振り返っても誰もいないって分かってるのに、振り返ってしまう。
これは、、あれだよ。
条件反射ってやつ?彼いつもついてくるからさ。
あれ?
なんで僕、最近こんなに彼のこと考えてるんだろう。
…しまった。
駅に着いて、ホームにある椅子に体育座りになって顔を埋める。
彼の事なんて、大嫌いなはずなのに。最近なヤツなのに。人と関わりたくなかったはずなのに。
一瞬でも、彼に会いと思ってしまった。
「………//」
何でいないんだよ。用事なんて、サボっちゃえ。バカ。バカ。バーカ。
いつのまにか僕の心の隙間に入り込みやがって。
「ごうえんじくん…。」
思わず溢れた言葉だけど、僕は転校して来て初めて誰かの名前を呼んだんだ。ほら、僕の初めてをゲット出来たんだよ?名前呼んであげたんだよ?
顔を上げてみた寒空は僕の心のように乾いていて切なくなった。
「ごうえんじくんのバカ…。」
早く、帰ってきてよ。
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